黄烏瓜(キカラスウリ) 夜に咲き、秋に実る ― キカラスウリという不思議な植物

黄烏瓜の花
夏の夕方、少し空気がやわらいできたころ。
林の縁や藪の中で、ふと目を引く白い花があります。
それは、キカラスウリ。
昼間には気づかないのに、日が傾くころ、まるで秘密を打ち明けるように静かに花を開きます。
花びらは、まるでレース細工のよう。
細く裂けた糸のような先端が、風に揺れて、どこか幻想的な雰囲気をつくり出します。
整った形というより、少し“もつれた”ようにも見えるその姿には、自然の造形の妙を感じずにはいられません。
この花が咲くのは、夜に活動する生きもののためです。
キカラスウリは雌雄異花で、雄花と雌花が別々に咲きます。そしてその間を取り持つのが、スズメガ。
長い口吻を持つこのガは、花の奥にある蜜を求めてやってきます。
そのとき、知らぬ間に花粉を運び、次の命へとつなげていきます。
まるで静かな夜にだけ動き出す、小さな自然の仕組みです。
やがて季節は巡り、秋。
あの白い花のあとには、ふっくらとした実がなります。
鮮やかな黄色の果実。
長さは10センチほどで、林の中でもよく目立ちます。
赤い実をつけるカラスウリに似ているけれど、こちらは黄色。
その違いが、そのまま名前になりました。
この実は、乾燥させると食べることもでき、ほんのりとした甘みがあります。
けれど、キカラスウリの魅力は、見た目や味だけではありません。
地面の下には、もうひとつの物語が隠れています。
キカラスウリは、地下に大きく太い塊根をつくります。
この塊根は「栝楼根(かろこん)」と呼ばれ、昔から漢方薬として使われてきました。
咳を鎮め、痰を切り、肺や気管支の不調を和らげる。
そんな働きをもつ薬として、人々の暮らしの中で静かに役立ってきたのです。
さらに、この塊根に含まれるデンプンは「天花粉」として精製され、
あせもを防ぐための粉として使われてきました。
夏の暑さに悩む人の肌を守る…
そんなかたちでも、この植物は人と関わってきたのです。
近年では、キカラスウリに含まれる成分が医療の分野でも研究され、
ウイルスに対する働きなどにも注目が集められています。
森の中にひっそりと咲く花が、
遠い未来の医療へとつながるかもしれない…
そう思うと、この植物の見え方も少し変わってきます。
キカラスウリは、決して目立つ存在ではありません。
昼間に歩いていても、見過ごしてしまうことのほうが多いでしょう。
けれど、夕方から夜にかけて、そっと目を向けてみると、
そこには静かで確かな生命の営みがあります。
夜に咲く花、秋に実る果実、そして土の中で育つ大きな根。
ひとつの植物の中に、いくつもの時間と役割が重なっています。
ほんの少し立ち止まって、自然を見つめてみる。
キカラスウリは、そんな時間の大切さを教えてくれる植物なのかもしれません。
〔参考・出典〕
農林中央金庫農林部「ぐりーん&らいふ 2004 夏(通巻第90号)」の表紙「森でくらす植物たち」
