日本全国の杉
日本の湿潤な気候に適したスギ(杉)は、北海道から沖縄まで全国各地に分布する、日本を代表する樹木です。古くから人々の暮らしに寄り添い、各地で独自のブランド材として発展してきたスギは、秋田杉、吉野杉、北山杉、日田杉など、地域ごとに異なる風土と育林技術により、さまざまな個性を持っています。
スギ材は軽くて加工しやすく、美しい木目を持つうえに、強度にも優れていることから、住宅建材として広く活用されてきました。土台や柱、梁(はり)といった構造材から、床や天井、建具材に至るまで、今なお、建築用材としての実用性と美しさの両面で高く評価されています。
![]() | 杉の品種名または一般的な呼称 |
|---|---|
![]() | 種の名称ではなく、杉の個体に付けられている名称 |
月形スギ
北海道樺戸郡月形町、月形スギ保護林内

月形杉は、北海道樺戸郡月形町に位置する月形スギ保護林内に植えられたスギで、国内におけるスギ人工林の北限として知られています。
この保護林は、明治23年(1890年)に植栽が始まり、スギの育成に挑戦した歴史的な林地です。現在は空知森林管理署によって保護・管理されており、スギのほかにもアカマツ、クヌギ、シナノキなど多様な広葉樹が共に生育しています。
そのため、月形スギ保護林は単なる人工林としてではなく、植物群落としての学術的価値が高く、観光資源としても注目されており、植物群落保護林に指定されています。また、水源かん養保安林としても法的に保全されており、地域の水環境保全にも寄与しています。
北国の厳しい気候の中で育まれた月形杉は、植林技術の歴史と、自然環境への適応の貴重な証として、今も多くの人々の関心を集めています。
道南スギ
北海道南部地方(渡島・桧山地方)

道南スギ(どうなんすぎ)は、北海道南部の渡島(おしま)地方や桧山(ひやま)地方に分布するスギの人工林資源です。北海道全体では、トドマツやカラマツといった針葉樹が主流であるため、道南スギの人工林面積や蓄積量は比較的少なく、全国的な認知度はそれほど高くありません。
しかし近年では、道南スギの人工林が計画的に整備・育成されてきた結果、資源としての充実が進み、その利用価値が見直されつつあります。
現在、外装材としての利用が中心であり、特に高級・高価なベイスギ(米杉)の代替材としての需要が高まっています。また、北欧産パイン材の代替として、内装材やデッキ材などにも徐々に活用の幅が広がっており、北海道産のスギ材として新たな期待が寄せられています。
鰺が沢杉
青森県西津軽郡鰺ガ沢町、矢倉山国有林とその付近

鰺が沢杉(アジガサワスギ)は、北限の天然杉と言われる。矢倉山スギ遺伝資源保存林には、樹齢約250年の杉も見られ、ブナとともに天然更新で生育している。雪圧により幼齢期に幹が折れたものはさかんに萌芽して立条となるが、鰺が沢杉(アジガサワスギ)の多くは伏条。樹冠が細長く、枝が鋭角のものは、心材が黒くなっており、材としては低く評価されるが、耐雪性は大きい。枝が下垂するものは材が美しい鮮紅色であると言われている。
気仙杉
岩手県気仙郡・下閉伊郡南部地方(住田町、大船渡市、陸前高田市など)

気仙地方で産出される良質な杉材は、「気仙スギ」として地域ブランド化が進められており、内外から高い評価を得ています。年輪幅が比較的広く、軽くて軟らかいため加工しやすく、木目が通っているため美しい仕上がりが得られるのが特徴です。さらに、杉特有の芳香を持ち、居住空間や内装材としても人気があります。
気仙地方は岩手県南東部の沿岸山間地域に位置し、古くから森林資源に恵まれていました。戦後には木炭材の需要減少などに伴い、スギを中心とする造林が進められ、現在では地域の森林の多くがスギ人工林となっています。これらの木材は、かつては電柱材や坑木材として使われ、全国に出荷されることもありました。
2011年の東日本大震災以降は、被災地での仮設住宅や復興住宅の建設資材としての需要が高まり、気仙スギの利用が再び注目されました。特に地元産材を使った木造仮設住宅の供給は、「地元の木で地域を再建する」という地産地消の象徴的な取り組みとして全国的にも話題となりました。
鶯宿杉
岩手県岩手郡雫石町、和賀郡沢内村地方

秋田杉(アキタスギ)の分布の延長に分布し、樹皮によって6つのタイプに分けられる。ややクマスギに似た点もあると言われている。幼時の成長が遅く、耐陰性が強く、伏条性も強い。20年生ごろから成長がよくなると言われている。
かって奥羽山系にある鶯宿山には天然ヒバやスギの美林が広がっており、加賀助一族の森林伐採が奥地に進んで行ったので、雫石を攻略した南部公が鶯宿杉の良材を惜しんで鶯宿山の伐採をさし止めたとのこと。その後、この地を切留という地名で呼ばれるようになったと言う。
栗駒杉
宮城県北部の栗駒(くりこま)山麓

写真:くりこま杉協同組合
栗駒(くりこま)杉の特徴は、燻煙(くんえん)乾燥。製材工程で出る「木端」や「廃材」「木の皮」などを燃料として利用し、その時に発生する「熱」と「煙」により木材を乾燥させている。約80℃の温度で1〜2週間程度乾燥させることにより、ひずみを減少させ、強度を高める。煙で燻す(いぶす)ことにより、自然の防虫処理にもなるため、防腐・防虫・防カビ作用が高く、害虫(ダニ・シロアリ等)を寄せ付けにくい材となる。
牧の崎杉
宮城県牡鹿郡牡鹿町牧の崎(現在は石巻市)

写真:東北森林管理局
牧の崎杉(まきのさきすぎ)は、宮城県石巻市(旧・牡鹿郡牡鹿町)牧の崎に位置する、スギの天然壮齢林です。この地域は牡鹿半島の西部にあたり、特異な地形と気候条件のもとで、伏条更新(ふくじょうこうしん)と呼ばれる独特の繁殖様式によってスギが増殖していることで知られています。
このスギ林は「牧の崎スギ遺伝資源希少個体群保護林」に指定されており、原則として伐採が禁じられている貴重な森林です。林内のスギは、枝や幹が地面についた部分から根を出して新たに成長する「伏条」と呼ばれる自然繁殖によって形成されており、人為的な植林ではない天然の林相が維持されています。
なお、1株から複数の幹(立条)が立ち上がっている個体も確認されており、これはかつて人の手が加えられた痕跡と考えられています。こうした形態は、自然更新と人為的関与の歴史が交錯する独特の森林景観を形成しています。
牧の崎杉は、遺伝資源としても重要な価値を持ち、今後の森林生態系の保全や林業資源の研究において、貴重な存在となっています。
秋田杉
秋田県の県北、特に米代川流域一帯。雄物川、子吉川流域、青森県西南部一帯。

かつて「秋田杉」とは「天然秋田杉」のみを指していたが、最近では、育成林(人工林)で育てた杉を「秋田杉」、自然に育った杉を「天然秋田杉」と呼んで区別している。
人の手をかけて育てる「秋田杉」は間伐などを行なうため、生長が早く、年輪の幅も広い。
一方「天然秋田杉」は、自然環境の中で育つので生長が比較的ゆるやかではあるが、年輪幅が狭く揃う。天然秋田杉は100年を過ぎた高齢のものでも持続的に生長するため大径木となる。標準的な樹齢は200〜250年と推定されている。通直で伸びがあり、美しいつや・均一な木目を持つ。また、強度に優れ、狂いが少ないことも特徴。大径木は太い梁や柱に利用でき、天井板などにも珍重される。
桃洞杉
秋田県北秋田郡阿仁町、森吉町森吉山の標高800〜900mの地帯

通常の秋田杉(アキタスギ)は標高600〜700m以下の地域に分布するのに対し、桃洞杉(トウドウスギ)の群落は、標高800〜900mの豪雪高山地帯に分布し、秋田杉とは隔離した原生林(樹齢200〜400年)を形成している。伏条性に富み、耐雪・耐寒性が強い。高山地帯の生態系として学術的、林業技術的研究価値が高く、533haの群落が昭和50年に国の天然記念物に指定されている。
鳥海群杉
秋田県由利郡矢島町、鳥海村一帯、鳥海山山麓の標高600〜650m付近

写真:東北森林管理局
鳥海群杉は、秋田県の鳥海山山麓に見られる天然スギの群状林で、標高600〜650mの冷涼多雪地帯に分布しています。この地域のスギは、積雪によって幹が倒れ伏すことで地面に接した枝から発根し、そこから新たな幹が立ち上がる「伏条更新(ふくじょうこうしん)」によって繁殖しているとされ、耐雪性に優れた樹形を持つのが特徴です。
伏条更新によって1株から多数の幹が立ち上がるため、木々が群がるような姿をしており、「群杉(ぐんすぎ)」という名称が付けられました。こうした自然繁殖の形態は、積雪環境に適応したスギの進化の一例として注目されており、学術的にも貴重な森林形態といえます。
一部のスギ林は「鳥海ムラスギ遺伝資源希少個体群保護林」として林野庁により指定されており、天然スギの遺伝的多様性を保全する重要な地域として管理・保護が行われています。
ただし、現地調査では、伏条や立条といった栄養繁殖ではなく、実生更新によって成立している個体が多いという報告もあり、詳細な成立過程については今後の研究の蓄積が期待されています。
〔参考・出典〕林野庁「鳥海ムラスギ遺伝資源希少個体群保護林」/和田覚・他「鳥海山山麓におけるスギ天然林の構成と成立要因」
オブ山の大杉
秋田県大仙市

写真:林野庁・東北森林管理局
オブ山の大杉は、秋田県大仙市太田町、真木真昼県立自然公園内に広がる川口渓谷風景林の急斜面(標高約450メートル)に、悠然と立つスギの巨樹です。推定樹齢は1,000年以上ともされ、幹周12.4メートル、樹高34メートルという圧倒的な存在感で訪れる人々を魅了します。
この大杉は、林野庁の「森の巨人たち百選」(選定番号18)に登録されており、また大仙市指定の文化財としても保護されています。調査によって「県内最大の太さを持つスギ」とされることからも、その価値の高さがうかがえます。
「オブ山の大杉」を中心とした一帯は、スギとミズナラが混在する針広混交林となっており、生態系の多様性や景観的価値にも優れています。また、近隣の権現山にも幹周8メートルを超えるスギの記録があり、この地域が古来より豊かな自然林に囲まれていたことがわかります。
地域の人々の手によって守り継がれてきたオブ山の大杉は、自然の神秘と人の営みが共存する象徴的存在です。
※オブ山の大杉へのアクセスは、JR大曲駅から奥羽山荘方面への路線バスを利用し、川口渓谷入口から徒歩約1時間。最後は急な山道を600メートルほど登る必要があるため、しっかりとした装備での訪問が推奨されます。道中には渓流のせせらぎや森林の香りを楽しめる区間もあり、森林浴としても魅力的なコースとなっています。
〔参考・出典〕林野庁東北森林管理局「森の巨人たち百選」/大仙市公式観光情報ページ
夫婦杉
仁別自然休養林(太平山県立自然公園)内

太平山県立自然公園内に位置する仁別自然休養林には、雄大な天然秋田杉と広葉樹林が繁茂している。この美しい自然の中に、根元から分かれた2本の天然秋田杉が、まるで夫婦のように寄り添って立っている。左側が「女木」、右側が「男木」と呼ばれ、その姿は仲睦まじい夫婦の様子を思わせる。散策歩道が整備されており、訪れる人々に自然の中での静かなひとときを楽しませている。林野庁の「森の巨人たち100選」に選ばれている。
西山杉
山形県西村山郡一帯
大江町七軒地区を中心に西川町間沢、朝日町一ッ沢へと伸びた区域/奥羽山系の出羽丘陵

西山杉(にしやますぎ)は、山形県西村山郡一帯で育つスギの地域ブランド材で、大江町七軒地区を中心に、西川町間沢や朝日町一ッ沢へと続く奥羽山系出羽丘陵地帯に分布しています。この地域は寒暖差が大きく、適度な湿度と肥沃な土壌に恵まれており、木目の通った良質なスギが育ちます。西山杉は、赤味を帯びた鮮やかな色合いと美しい光沢が特徴で、特に高林齢木ではその色調がいっそう冴え、深みを増します。堅めで加工性にも優れ、建築用の構造材や内装材として高い評価を受けています。
かつてこの地域は、古くから林業が盛んな地として知られ、地元の生活や文化と深く結びついてきました。近年では、県産材のブランド化や地産地消の推進により、西山杉の価値が再び見直されています。公共建築や住宅、木工製品への利用が進み、木育活動などを通じて地域の森と人をつなぐ役割も担っています。長い年月を経て培われた林業の伝統と、現代の地域振興を支える新しい動きが融合し、西山杉は今も静かにその魅力を発信し続けています。
金山杉
山形県最上郡金山町一帯

樹齢80年を越えたものが金山杉といわれている。雪深く、長い冬の気候の中で育つため、生長が遅く均一に成長する。木目が非常に細かく、木肌が赤みをおびていることが特徴。樹齢100年を超える人工林(伐採を目的として植林された林)の蓄積量として世界一を誇る。また、金山町有屋大美輪の大スギの樹高は59mで日本一。
山の内杉・土湯杉・八千代杉
山形県最上郡戸沢村

最上川両岸の急斜地に群状または点状に生育している天然スギ。最上峡谷に立つ姿は見事。老齢樹は風衝によってタコ足状(立条)に分岐しており、見るものを圧倒する力強さがある。耐陰、耐寒性が強く、伏条更新が多く、萌芽性も強い。また、幹の地際近くで分岐するものが多い。心材は黒褐色が強く、板材は雲状紋が見られる。
日光杉
栃木県日光市の日光山内および日光市・今市市・鹿沼市周辺。
約350年前、松平正綱が30年を費やして街道並木として杉苗を植栽した。

柾目材として年輪が細かく、薄桃色をしている。通直、完満な材が多く、建築用材としては角材に7割、板材に3割使用される。良質なものは建具材、根曲がり部は下駄材に利用される。なお、日光杉並木街道は、樹齢350年ほどで直径2mに達する巨木が見ることができる。特別史跡・特別天然記念物の二重指定を受けている貴重な文化遺産。
八溝杉
栃木県東部黒羽町周辺から、茨城県大子町・里美村にかけての八溝山系一帯。
黒羽町では、江戸時代から森林の保護育成が行われ、明治末期に急速に造林がすすんだ。

建築用材がおもな用途だが、小径木は土木用資材などに使われる。一般に、黒芯材(丸太の心材部分が黒い材)や偏芯材(年輪の中心が丸太の中心からずれているような材)が少なく、根曲がりが少なく、年輪幅が一定で、木目は美しいといわれている。木質・年輪幅・節などは中の上との評価されている。
西川杉
埼玉県飯能市周辺

飯能市周辺は針葉樹植林の歴史が古くからあり、大消費地に近いこともあり、高度成長期に生育の良い杉の生産が拡大した。扱いやすく、建築材・建具材として使用されている。
山武杉
千葉県東部山武地方

山武杉は、千葉県東部の山武地方(さんぶちほう)で育てられてきたスギの品種で、その名の通り、地域に根ざした林業資源として古くから親しまれています。
山武杉は、生長が早く、まっすぐに伸びる性質を持っているため、材質は通直(まっすぐでねじれが少ない)で、完満(丸みがあって形が良い)とされ、高品質な木材として評価されています。
芯材(木の中心部分)は淡い紅色を帯びており、美しい色合いを活かして、現在では建具材・板材・柱材など、住宅や建築の内装・構造材として幅広く利用されています。
さらに注目すべき特徴として、山武杉は花粉をほとんどつけない特性を持っており、花粉症対策品種としての開発・普及も進められています。林業と健康の両面で注目されるスギとして、今後の活用が期待される地域資源です。
青梅杉
青梅市近辺奥多摩一帯

青梅林業地は古くから足場丸太の産地として有名だった。また、江戸の庶民住宅の建築用材として盛んに使われてきた。また粘り気のある材で、現在はおもに柱材として使用されている。
越後杉ブランド認証材
新潟県内で生産されたスギ材のうち、含有率・強度・寸法など、県が定めた厳しい基準の認証規定をクリアした高性能・高品質の建材。

越後杉は雪国というきびしい環境で育つため、吉野杉に比べると成長速度は2/3と遅いが、それだけ年輪が詰み、強くたくましい木に育つ。ねばり強さとしなやかさがあることが特徴。
また、山の斜面に植えた杉は、根元が重い雪に引っ張られて湾曲し、いわゆる「根曲がり」となる。「根曲がり」は重い雪の負荷に耐えて成長したたしるしであり、木の中でも特に丈夫な部位であるため、ベンチなどに利用される。
将軍杉
新潟県東蒲原郡阿賀町岩谷2013

根元の近くから6本の幹にわかれているが、中央の1本は昭和36年の第2室戸台風で折損。樹下の墓碑は、この地に晩年を送ったと伝えられる平安時代の陸奥鎮守府将軍平維茂の業績をしのび寛文8年会津藩主保科正之が建てたもので、「将軍杉」の名はこれに起因する。その昔、村人がこの杉を伐り、船を造ろうと計画したところ、一夜にして地面に沈んでしまったという伝説が残されている。推定樹齢約1400年、幹周19m、樹高40m。昭和2年、国の「天然記念物」に指定されている。
立山杉
富山県東部地域

年輪幅は小さく、材はかたい。木目が細かくはっきりしている。富山県西部で産するポカ杉などとともに「とやまスギ」といわれる。
足羽杉・河和田杉
福井県美山町・鯖江市など

材質が赤身で柾目が美しい。大径材生産で芯却材(柱・桁用)と内装材に使われる。現在は広く、福井材といわれることが多い。
根羽杉・遠山杉
長野県下伊那郡根羽村・南信濃村

赤身の光沢がきれいで、油分が多く木に粘りがある。
長良杉
岐阜県都上郡および武儀(むぎ)郡長良川流域

岐阜県内のスギ資源が長良川流域に多いことから、「長良杉」という名称がつけられた。目が均等で冬日が太いため、仕上がり後の表情が豊かだとされる。構造材(柱・梁・桁など)、内装材(壁・床・天井など)、外装材として幅広く利用される。
石徹白の大杉
岐阜県郡上市 白山国立公園内
国の特別天然記念物

「十二抱えの大杉」とも言われており、幹の太さは12人が手をつないでようやく抱えることができるとのこと。泰澄大師(=奈良時代の修験道の僧。21歳の時、朝廷から鎮護国家法師に任じられた)が植えたという伝説がある。樹齢1800年(伝承)、樹高25m、幹周14m。
天竜杉
静岡県天竜市、磐田郡水窪(みさくぼ)町・佐久間町・龍山(たつやま)村、周智郡春野町

天竜の林は日本三大人工美林のひとつ。天竜川流域の気候が温暖で雪害がない恵まれた自然環境の中で育まれるため、根曲がりが少なく通直。節部の入り皮も少なく良質の杉が産出される。特に心材の耐久性が高く、耐水性も高い。材鑑は淡い赤色で、艶の良さを持ち、表面塗装などの処理無しでも光沢を放つ。
三河杉
愛知県東方の三河地方、愛知県南設楽郡・北設楽郡・新城市・東加茂郡・額田郡

この地域は温暖な気候と豊かな土壌に恵まれており、通直・完満な良材が育まれる。光沢のある赤味と美しい木目で、鴨居や天井板などの高級材として利用される。材鑑としては、辺材は白色、心材は淡紅色〜暗赤褐色で木理が通直。心材は非常に耐水性・耐久性が高いなどの特徴がある。用途としては、天井板の他、構造材、造作材、建具、床板、野地板などに使われる。
御山杉
三重県伊勢市の内宮・外宮および滝原宮の「神域」

赤みを帯び、杢目が細かく、美しい笹杢がみられる。
谷口杉
滋賀県浅井町谷口

田根(たね)杉とも呼ばれる。択伐施業がおこなわれてきた。生長がよく、材はやわらかく淡い赤色。
北山杉
京都市北区中川地区を中心とした北山地方
隣接する京北町以北で生産されるものは丹波材として区別される

北山杉は、シロスギと呼ばれる品種で生長が遅く、無節で年輪が密なため、材が強靭であるが、心材部に割れが入りやすい。基本的に同大の円直材で、高級木材とされている。磨かれた「磨き丸太」の木肌には独特の光沢があり、「絞り」と呼ばれる独特の凹凸模様が入る。その味わいが美しく、京都の茶の湯文化を支えるのに欠かせない存在で、室町時代から、数寄屋建築に必ずといってよいほど使われている。
宇治田原杉
京都市の南方、宇治田原町一帯

宇治田原町は町域の約7割が山林で、そのうち5割以上が杉・檜の人工林である。宇治田原の杉は生長が良く、高齢木外周の年輪も円形に近い。
河内杉
大阪府河内地方

吉野材の影響を受け発展。吉野同様、密植で木目が細かい。柱材として多用されてきた。良質のものは吉野材として市場に出る。
春日杉
奈良市東方、春日大社境内および春日山一帯に植林された枯損老大木の杉

法規制により、風倒木や枯木しか利用できないため稀少価値が高い。心材はやや桃色を帯びた赤色で、時間の経過とともに茶褐色に変色し渋い味わいを醸し出す。柾目がはっきりとあらわれ、樹脂成分を多く含んでいるため美しい光沢をもつ。春日杉の「笹杢」は天井板や落とし掛けなどに用いられる。強度はやや劣る。
吉野杉
奈良県吉野郡の吉野川上流。吉野林業地帯(川上村、東吉野村、黒滝村)を中心とする一帯

日本三大人工美林の1つ。最高級のブランド材として有名。江戸時代から昭和初期にかけては酒樽・樽丸の生産を目的としため、植栽本数は1ha当たり8000〜10000本という超密植。その後、弱度の間伐を数多く繰り返し、長伐期施業で行われてきた。よく手入れされ完満通直な材となる。冬目が硬く、油分がある。銘木としては、時間を経ると美しい飴色になる。天井板などに用いられるが、磨丸太としても有名。構造材としての使用が多く、長い幹で節が少なく、年輪幅が狭く、強度が高いとされる。
若桜杉
鳥取県東部の若桜(わかさ)町一帯

緻密で油分が少なく、秋田杉に似た性質がある。
智頭杉
鳥取県東南部の智頭町一帯

智頭町は奈良の吉野や京都の北山に並ぶ歴史ある林業地として、全国的にも知られており、四季を通じて寒暖の差が激しい気候風土と伝統的な育林技術により「智頭杉」が育まれている。年輪が一定幅で木質は均等。粘り強く、歪みが生じにくいが、やや柔らかい。建築材をはじめ、内装材としても利用されている。木目が均等に詰まった木質や鮮やかな淡紅色の美しい心材などが評価されている。
木頭杉
徳島県西南部の那賀郡・海部郡。

奈良・平安時代から都で使用されてきた。強度性能に優れており、厚板・割柱・内装材として使用される。
久万杉
愛媛県中部(仁淀川流域の久万高原町と肱川上流の小田町の一部を合わせた林業地域)

愛媛県中部に位置する久万林業地は豊かな土壌(褐色森林土)と冷涼多雨の気候で材木の生育に適している。久万林業の先駆者と評されている井部栄範(いべよしのり)による積極的な植林事業と戦後の積極的な造林により愛媛を代表する林業地(現在の人工林率は約9割)となった。久万杉はおもに40〜60年生のもので、比較的軽く軟らかく加工が容易。建築用材として十分な強度があり、床柱・床材・集成材(集成桁・梁、柱)などとして使われる。材鑑としては、木質が細かく挽肌のツヤがよい、木目が緻密で樹心部と辺材部で木目の開きが少ないなどの特徴ある。
魚梁瀬杉
高知県東部の馬路村・東洋町を中心とした一帯。土佐杉ともいわれる。

材の色彩が豊富で、多種多様な杢目が見られ、樹脂分が多く、時を経ると光沢を放つ。昔からそれらの美しさが評価され、薄くスライスして天井板に使われたり、内装材としても利用されている。近年では、この天然木が出荷されなくなり、希少価値が高まっている。現在では先人が森林組合などに残したものがわずかに残っており、特注品として人気がある。また、天然木の器やお盆などの工芸品なども作られている。
杉の大杉
高知県長岡郡大豊町杉の八坂神社境内

この大杉は素戔嗚尊(すさのおのみこと)が植えたという言い伝えがあり、推定樹齢3000年の巨木。「北大杉」と「南大杉」のニ株の大杉からなっており、根元で合着している。「南大杉」の方がやや大きく、根元の周囲が約20m、樹高が約60mで、北大スギは根周りが約16.5m、樹高が約57mある。1952年には国の特別天然記念物に指定された。
なお、この大杉のすぐ側に美空ひばりさんの遺影碑と歌碑が建立されている。美空ひばりさんが9歳の頃、地方巡業をしている途中、大豊町でバス事故に遭遇し九死に一生を得た。彼女は「日本一の歌手にしてください」と大杉に祈願し、夢を託した。そして14歳のときに世話になった人々へのお礼を兼ねて大豊町を再訪し、大杉を参拝した。このような縁によって、大豊町は美空ひばりさんの没後(平成5年5月)に数多くの関係者の協力のもと「大杉の苑」を整備して遺影碑と歌碑を建立した。
八女杉
福岡県八女郡一円

建築材では心材に赤身が多く、艶があり、磨丸太材では通直で真円性に優れている。
英彦山の鬼杉
福岡県田川郡添田町
英彦山字彦山2番
英彦山国有林3068ろ林小班内

昔、山の主である英彦山権現が鬼たちと知恵くらべをしたとき、敗れた鬼は持っていたスギの枝を地面に突き刺した。それが芽を吹いて大木になり、人々は鬼杉とよぶようになったとの言い伝えがある。かつては60m以上の樹高を誇っていたが、頭頂部は落雷によって失われ、現在は38mにとどまっている。推定樹齢1200年、幹周12.4m。国指定天然記念物、森の巨人たち100選にも選ばれている。霊山にふさわしい堂々たる風格をもつ巨樹。
市房杉
熊本県水上村の市房神社の神社林およびその周辺一帯

年輪は緻密で細かい褶曲状。笹杢が見られることが多い。
小国杉
熊本県阿蘇郡中国地方

1750年代から藩命により、各戸25本の杉穂のじか差しをしたことに由来する。適地適品種を考慮し、造林者自ら養成した良質な親木の性質がそのまま伝わる挿し木苗の植林方法をとっている。また、ヘクタール当たり2000本〜3000本のやや疎植造林を行っていることも小国林業の特徴。強靭な材で台風などの災害にも強く、折れにくいことが知られている。「ヤブクグリ」と呼ばれる品種が最も多く60%、ついで「アヤスギ」と呼ばれる品種が30%を占めている。「ヤブクグリ」は幼令期の間は根曲がりの傾向があるが、さし木が容易で成長も早く、材質も優れている。材はやや桃白色で粘りがあり、柱、板材、建具材等に使われる。アヤスギは、比較的やせ地の乾燥地でもよく成長し、成長は中位であるが、心材は淡紅色で材質は優れており、構造用材など建築材として広く利用されている。
日田杉
大分県日田市を中心とした一帯

直材であるため、古くから造成材として利用されてきた。材質は比較的硬く強度もあり、建築用材としての要求が近年は高い。
飫肥杉
宮崎県日南市を中心とした飫肥地方一帯

樹脂が多く、吸水性が少なく、曲げに強いなどの性質から造船材(弁甲材)として利用されてきた。国内はもとよりアジアの国々(特に韓国)にも大量に出荷されていた。
霧島杉
鹿児島県霧島町の霧島神宮の神宮林
広くは、狭野杉をはじめ七する霧島山系全体や、南九州全体に産するものを総称することもある。

ほとんどが社木となっており、風倒木や枯木しか利用できず、稀少価値が高い。心材の色は黄色がかった淡紅色で、早材部が白く、緻密な肌目が特徴。大径木は年輪が褶曲状で、繊細で優雅な「笹杢」(笹の葉を散らしたような杢目)を見せ、天井板や床材として評価が高い。
屋久杉
鹿児島県屋久島(屋久町・上屋久町)

年輪が緻密で、変化に富んだ木目模様が見られる。心材は黒色味が強い。樹脂分を多く含むため、独特の芳香を放ち、腐りにくい。一方、ひび割れや中が空洞であることも多い。
縄文杉
屋久島(鹿児島県熊毛郡屋久島町)
宮之浦岳国有林99ほ林小班内/大株歩道沿いの標高1300m付近

1993年に屋久島が世界自然遺産登録されてからは観光客が絶えることはない。樹勢が衰えた縄文杉を保護するため、観望デッキが整備されている。発見当時は、発見者の名前をとって大岩杉と呼ばれていたが、取材した新聞記者が縄文土器に似ているということからこの名前を付けたと言われている。推定樹齢2200〜7200年、樹高25.3m、幹周16.39m。最大の屋久杉と言われている。
ウイルソン株
屋久島(鹿児島県熊毛郡屋久島町)
大株歩道沿いの標高1000m付近

1586年(天正14年)、豊臣秀吉の命令により京都の方広寺建立の為に切られたといわれる(大坂城築城の為という説もある)。大正時代にこの大株を手がかりに屋久島の巨木林の存在を世界に紹介したアメリカの植物学者アーネスト・ヘンリー・ウィルソンの名がこの大株の名の由来。切り口の周囲は13.8m、樹高は60mと推定されている。中の空洞から空を見上げると「ハート」型に見える。また空洞の地表からは水が湧いている。
弥生杉
屋久島・白谷雲水峡
鹿児島県熊毛郡屋久島町(宮之浦岳国有林215い林小班)
白谷雲水峡の遊歩道沿いの標高710m付近

凹凸の激しいたくましい姿は、まっすぐで割りやすい屋久スギを利用していた江戸時代に利用価値が低い木として伐採されることなく今に残されたと言われている。推定樹齢3000年、樹高26.1m、胸高周囲8.0m。
大王杉
屋久島(鹿児島県熊毛郡屋久島町)
大株歩道沿いの標高1190m付近

縄文杉が発見されるまでは、最大の屋久杉として君臨していた。幹の下部には、人がゆうゆうと入れる程の大きな割れ目があり、周囲を圧倒する威風は縄文杉に劣らない。推定樹齢3000年、樹高24.7m、胸高周囲11.1m。
紀元杉
屋久島(鹿児島県熊毛郡屋久島町)
耳岳国有林81い林小班内/安房林道沿いの標高1230m付近

林道脇に生育しており、車の車窓からでも眺められる唯一の屋久杉。 表面の胴周りはゴツゴツしており、これは杉に害を及ぼすウイルスと戦ってきた証と言われている。幹には、ヒカゲツツジ、ヤマグルマ、ヒノキ等の19種類の樹種が着生しており、初夏にはヤクシマシャクナゲの花、秋にはナナカマドの紅葉などを樹上に見つけることができる。樹齢3000年、樹高19.5m、胸高周囲8.1m。
三代杉
屋久島(鹿児島県熊毛郡屋久島町)
森林軌道沿いの標高740m付近

「倒木更新」と「切り株更新」と呼ばれる世代交代を重ねて育った三代目の巨大な杉。一代目は約2500年前にが芽生え、樹齢1200年で倒木。二代目はその倒木の上で発芽し、樹齢約1000年で伐採された。二代目の切り株から萌芽したのが現在の三代目。親・子・孫と三代にわたって、脈々と生き続ける珍しい杉。現在の三代目の推定樹齢は約350年、樹高38.4m、胸高周囲4.4m。現在1代目の樹体部分は朽ちて空洞になっている。
二代大杉
屋久島・白谷雲水峡
鹿児島県熊毛郡屋久島町
白谷雲水峡の原生林歩道の標高730m付近

江戸時代に伐採された一代目の切り株の上に育った(=切り株更新)ため、一代目は朽ちて、中は空洞になっている。雲水峡の中では最も大きなスギと言われている。推定樹齢は不明、樹高32.0m、胸高周囲4.4m。
三本足杉
屋久島・白谷雲水峡
鹿児島県熊毛郡屋久島町
白谷雲水峡の原生林歩道の標高800m付近

樹齢数百年の屋久島の中では比較的若い杉。3本の足で踏ん張っているような珍しい姿をしている。転石または倒木の上で育ち、それを大きく抱え込んだため、このような姿になったと言われている。樹齢は不明、樹高25.0m、胸高周囲3.9m。なお、三本足杉周辺は、湿度の高い沢地であるため、コケが生した深緑の世界となっており、独特の雰囲気を醸しだしている。
仏陀杉
屋久島・ヤクスギランド
鹿児島県熊毛郡屋久島町(屋久島自然休養林)
ヤクスギランドの遊歩道沿い標高1030m付近

コケに覆われた幹には、大きな空洞があり、その名にふさわしい風格がある。上部には12種の植物が着生して枝のように見えるが、本体は衰弱しており、樹勢回復の取り組みが行われている。


