夏眠(かみん) 夏にも眠る?生きものたちの「夏眠」という戦略

カタツムリの夏眠
「冬眠」という言葉はよく知られていますが、それに対して「夏眠(かみん)」という言葉はあまり耳にしないかもしれません。どちらも「休眠」という生物の基本的な生存戦略の一つで、過酷な環境条件に耐えるために、一時的に活動や成長を止めて生命を維持する行動です。
一般的に、冬眠は寒さや食料不足に備えるために行われますが、夏眠はその逆で、高温や乾燥といった厳しい夏の環境を乗り切るための手段です。
熱帯の生きものがとる夏のサバイバル術
たとえば、熱帯地方に生息するワニやカエル、古代魚の一種であるハイギョなどは、夏の乾季に水分の蒸発を防ぐため、湿った洞窟や地中に潜って夏眠を行います。特にハイギョは、泥の中に潜り、自らの粘液で「繭(まゆ)」を作って乾燥をしのぎます。数ヶ月から数年もの間、水を一滴も飲まずに休眠状態を続けることができるのです。
「夏眠」とは言っても、実際には季節的な“夏”に限られるものではなく、環境が高温・乾燥になる時期に行われるという点が特徴です。
日本でも見られる夏眠の例
夏眠は日本の生きものにも見られます。たとえば、カタツムリやヒキガエル、テントウムシ、カナヘビ、ヒガンバナなど、さまざまな動植物が夏の間に休眠をとっています。
- ヒキガエルは皮膚から水分を吸収するため、乾燥に弱く、涼しい土中に潜って夏を越します。
- テントウムシ(ナナホシテントウ)は、気温が27℃を超えて餌となるアブラムシが減ると、葉の裏や樹皮のすき間に隠れて活動を止めます。
- カタツムリは殻の入り口に「エピフラム」という膜を張り、体内の水分の蒸発を防ぎながらじっと雨を待ちます。
- ヒガンバナは夏になると地上部を枯らし、地下の球根だけで生き延び、秋に再び花を咲かせます。
なお、メダカのように10℃以下になると冬眠する魚もいますが、高温には比較的強いため、通常は夏眠を行いません。
夏眠は「生き延びるための知恵」
こうした例からわかるように、夏眠は動植物が厳しい自然環境を乗り越えるために選んだ「生き残りの知恵」といえるでしょう。
現代では、地球温暖化や異常気象により、冬眠の期間が短くなったり、そもそも休眠しないケースも増えてきています。そんな変化の中で、もし人間にも「夏眠」のような生体機能が備わっていたら…と考えることもあります。
強烈な暑さや体力の消耗が続く夏。自然界の生きものたちのように、環境に応じて「休む」こともまた、私たち人間にとって重要なライフスタイルの一部なのかもしれません。