フィトンチッドのさまざな効果

身も心もリフレッシュできる森林浴。森の中は、どこか清々しく爽快感を体験した人も多いと思います。この効果をもたらすのは、樹木が発散する芳香。一般に「フィトンチッド」とよばれています。森林は木々が発散する香りの成分「フィトンチッド」があふれています。

ヒノキの葉の写真

木々の葉からフィトンチッドが放出され、森林が浄化される(写真はヒノキの葉)

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森を浄化するフィトンチッド

フィトンチッドとは、植物にたえず進入しようとする有害な微生物(菌や細菌)、有害な昆虫から身を守るために、動物のように動き回ることができない植物自身が自己防衛のためにつくりあげてきた物質です。

また、森の中には動物の死骸や排泄物などさまざまな堆積物などがあります。本来なら、これらの臭気が気になるはずですが、それを全く感じさせないのは、フィトンチッドが消臭効果や脱臭効果を持ち、空気を浄化する能力があるからです。

また、松の木の下では雑草があまり生えません。これは、松の葉が地面に落ちると、松の葉の成分(発芽を抑える働きがある)が土壌に溶け込み、発芽が抑えられるからです。松の木に限らず他の樹木も同様で、イチョウやクスノキなどもその働きが強いようです。木の周辺に雑草を生やさせないのは、自らの生存領域に他の植物が侵入することを防ぐため(自己防衛のため)といわれています。

「フィトンチッド」を発見した旧ソ連のB.P.トーキン博士は、フィトン(植物が)チッド(殺す)と名付けました。これは、高等植物が傷つくと、傷口を菌や細菌などから守るために、周囲の生物を殺す物質(フィトンチッド)を出すことに由来しています。フィトンチッドは、植物の根や幹に含まれ、森林では主に葉から放出されています。「フィトンチッド」の語源はぞっとするような言葉ですが、私たち人間にとっては、多くの恵みを与えてくれる「森林の精気」です。

森の木立の写真

フィトンチッドの働きで、森林は爽やかに保たれている

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食品への防腐・殺菌効果

上記のとおり、フィトンチッドの語源は「フィトン(Phyton=植物)がチッド(cide=殺す)」です。フィトンチッドには、殺菌効果や防腐効果があり、食品の鮮度を保つことに役立っています。

昔の人はおにぎりを木の皮で包んでいました。木のお弁当箱もよく使われていました。今でも、清潔に保つ必要があるまな板や食器など、木製のキッチン用品もよく見かけます。

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お寿司屋はフィトンチッドの宝庫

お寿司屋さんはフィトンチッドの宝庫です。まず、ガラスケースの中に、サワラやヒノキの針葉樹の葉とともに寿司タネが保存されています。 タネの間には、ササの葉やシソの葉などを置いて、見た目の美しさとともに鮮度保持にも役立っています。

まな板や飯台、寿司を置くつけ台、テーブルなどにもヒノキやサワラが使われ、あがり(お茶)にはカテキン(フィトンチッドの一種)が含まれています。そして、お土産のお寿司を包む際には、スギやヒノキなどの木材を薄く削って包み紙のようにした経木(きょうぎ)が使われます。柿の葉寿司、鱒寿司などの押し寿司は葉で包まれています。

他にも桜餅や柏餅、笹団子などの葉なども日常よく見かけます。これらは、見た目が美しいだけでなく、フィトンチッドの鮮度保持効果、殺菌・防腐効果を利用しているものです。フィトンチッドは食品の保存にも有効なのです。

樹種 用途 フィトンチッド
(化学成分)
効果
ヒノキ 寿司をのせる飯台 テルペン類 抗菌
サワラ 寿司ネタを入れたガラスケースの中 ピシフェリン酸 酸化防止
桜の葉 桜餅 クマリン 抗菌
柏の葉 柏餅 オイゲノール 抗菌
青森ヒバ 木造住宅 ヒノキチオール 抗菌・防虫
クスノキ 防虫剤 カンファー 防虫・防腐
お茶 飲料 カテキン 抗菌
わさび 薬味 アリルイソチオシアネート 抗菌
ショウガ 食料 ゲラニルアセテート 抗菌
ショウブの葉 菖蒲湯 アサロン 疲労回復・精神安定
カボチャ 食料 カロチノイド 風邪の予防

〔参考資料・出典〕
フィトンチッド普及センターのホームページを参考に作成


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クマリンと桜餅

桜餅は独特な甘い香りしますが、香りの正体は、餅を包んでいるサクラの葉に含まれるクマリンと呼ばれる芳香物質です。サクラの葉は直接匂いを嗅いでもクマリンの香りはしません。クマリンは化学物質(C962)ですが、葉の中では他の物質と結びついているので、サクラの葉自体に匂いがしないのです。桜餅の葉はオオシマザクラの葉を使用しており、塩漬けにして1年ほど寝かしてあるとのことです。クマリンはサクラの葉の他、帰化植物のハルガヤ、秋の七草の一つフジバカマにも含まれており、乾燥させるとクマリンの甘い芳香がします。

クマリンは血液凝固阻害剤(血液を固まりにくくし、血栓ができるのを防ぐ薬)や殺鼠剤(ネズミを駆除する薬剤)としても使われており、さらに、クマリン自身も肝毒性を持つ可能性も指摘されており、食品への添加は認められていません。ただし、桜餅のように香料の成分等の添加物としてのみ認められています。それでも過度の摂食は注意が必要なようです。

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木製品になっても効果は持続

森林の木々が木製品になっても、フィトンチッドの効果は持続します。たとえば、「ヒバ材で建てた家は、蚊がよらない、カビが生えない」「クスノキのタンスには防虫剤はいらない」などといわれています。木の家や木質の内装の部屋では、森林浴と同じような効果があるといわれています。

また、部屋や浴室のカビ、家ダニなどへの防虫にも効果的です。特に抗菌作用は、病原菌にも有効です。フィトンチッドは人体に安全な天然物質なので、副作用の心配もありません。森林で生産される木材。そして木材からつくられる木製品は私たちの身近で見かけるものですが、目には見えない部分でもフィトンチッドとして、わたしたちの暮らしに深く関わっているようです。

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人体にも有益なフィトンチッド

近年、フィトンチッドの癒やしの効果を検証すべく、さまざまな実験や研究が行われており、医学的に心身を深いリラクゼーションに導く効果が明らになってきています。その内容は概ね次のとおりです。

  • 脳内のα波の発生を促し、精神を安定させる。
  • 自律神経を安定させる。
  • 交感神経の興奮をおさえ、不眠を解消し、快適な睡眠をもたらす。
  • 脳の活動や血圧を鎮め、怒りや緊張などを和らげる。
  • ストレスホルモンを減少させる(免疫力強化、高血圧改善)。
  • 血中の抗がんタンパク質を増加させる。
  • 肝機能を改善する。
  • 呼吸を正常に整える。

森の中でフィトンチッドを胸いっぱい吸い込み、心身をきたえ、リラックスしようとする森林浴も盛んです。樹木が発散するフィトンチッド(精油成分)の量は6月から8月にかけて多くなりますので、この季節が森林浴には最適な時期です。

精油量の変化のグラフ

フィトンチッド量の変化(月推移)

※森林浴の快適さ、心地よさは樹木の発するフィトンチッドだけでなく、目に優しい緑や自然の音、さわやかな風など、森林内の環境がもたらすさまざまな要因と相まって発揮されると考えられます。

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森林浴ができる森林/レクリエーションの森

レクレーションの森の写真

赤沢休養林

全国各地には国有林と呼ばれる国(林野庁)が所管する森林があります。国有林には、皆さんに気軽の森を楽しんでいただくためのレクリエーションの森が設置されています。

レクリエーションの森は四季折々の自然の美しさを楽しめる自然休養林をはじめ、登山、キャンプ、ハイキング、スキーなど森林レクリエーションの場として、国民の皆さんに親しまれています。全国に100箇所(4万ha)以上もあります。


〔参考文献・出典〕
一般財団法人 日本木材総合情報センター、一般財団法人日本住宅・木材技術センター「木がつくる住環境(芳香物質編)」/フィトンチッド普及センターのホームページ


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