森林土壌と地球温暖化防止

森林土壌の写真

森林土壌には炭素貯蔵や温室効果ガスのメタンを吸収する機能があり、地球温暖化防止に重要な役割を担っています

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森林土壌の炭素貯蔵

森林で育つ樹木は、成長とともに、絶えず枝葉を地面(土壌の表面)に落とし続けます。枯れた枝葉は地面に貯まるとともに、それを食べる土壌生物(土壌動物や土壌微生物)が増えていき、枝葉の分解が進みます。分解された物質の一部は土壌に浸透していきます。土壌中の有機物は枯れた植物体や生物の死骸に由来しています。この有機物には炭素が多く含まれているため、森林土壌に炭素が蓄積されていくのです。

このように、森林土壌では、有機物が絶えず植物から供給され、土壌生物により分解され続けています。それでも分解されつくすにはかなりの時間がかかるため、森林土壌には有機物が蓄積されていきます。この土壌中の有機物には炭素をはじめ、植物の成長に欠かせない養分が豊富に含まれており植物が育ちます。

ところで、日本の森林土壌に貯留される炭素量は、枯死木や落葉・落枝を含めると、おおよそ37億トンと推定されています。一方、日本の森林の樹体中の炭素量は約15億トン程度と推計されているので、土壌中には森林の樹木中の約2.5倍にも当たる炭素が蓄積されていることがわかります。森林土壌に炭素が蓄積されると、大気中の二酸化炭素も減らすことになるので、森林土壌も地球温暖化防止に役立っていることになります。

このように、森林の土壌による炭素貯蔵は、地球温暖化防止のために非常に重要な役割を果たしています。しかし、森林伐採や畑などの土地の転換などによって、土壌中の炭素が失われることがあります。そのため、森林保全のための活動や持続可能な森林管理を行うことが、炭素貯蔵の維持につながります。

温室効果ガスの温暖化への寄与度を表すグラフ

 

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森林土壌によるメタンの吸収

メタンは、二酸化炭素に次いで地球温暖化への寄与度の高い温室効果ガスです。メタンは、石炭、石油の利用など人間活動により発生します。また、湖沼、水田、家畜(反すう動物)、ゴミ処理場などから放出されます。

メタンは、大気中に存在する時間が短いため、二酸化炭素に比べて大気中の濃度は低く、二酸化炭素の200分の1程度です。このため、地球温暖化への短期的な影響は二酸化炭素に比べて低いとされています。しかし、メタンは二酸化炭素よりも20倍以上も大気中での温室効果が強いガスであるため、長期的な影響は大きくなると考えられています。産業革命以降、大気中メタン濃度は二酸化炭素と同様に上昇し続けており、排出量を削減することが求められています。

一方、土壌は大気中のメタンを吸収することが知られています。土壌中には、メタン酸化菌と呼ばれる微生物が棲息しており、大気から土壌中に流れ込んだメタンをより温室効果の低い二酸化炭素に分解します。土壌によるメタンの吸収は、大気中メタン濃度の上昇を抑え、地球温暖化を緩和することにつながります。

ところで、海外でおこなわれた研究から、なかでも森林土壌は、面積あたりのメタン吸収量が大きいことが知られています。また、国内での観測としては、独立行政法人森林総合研究所によって、北海道から沖縄まで26ヶ所の森林で毎月、メタン吸収量を測定が行われました。その結果、裸地よりも木々に覆われた樹木園の方でメタン吸収量が大きいことがわかりました。これは、森林土壌の方で、土壌水分や養分状態がメタン酸化菌の生育に適しているためと考えられています。

温室効果ガスの温暖化への寄与度を表すグラフ

 

さらに、日本の森林土壌は、面積あたりのメタン吸収量が、欧米などにくらべて大きい傾向にあることがわかりました。土壌の種類で比べると、黒色土で特にメタン吸収量が高いことがわかりました。黒色土はおもに火山灰から生成した土壌で、通気性がよい特徴を持っており、大気中のメタンが土壌中に流れ込みやすく、メタン酸化菌に活発に分解されたと考えられます。

土壌の種類別メタンの吸収速度

 

家畜から放出されるメタン

家畜や反すう動物(例えば羊、山羊、鹿など)は、消化器系内で微生物が発酵させた飼料を消化することによって、メタンを生産し、放出します。反すう動物の消化管には、メタンを生産するメタン原形成細菌が存在しています。この細菌が、飼料の中に含まれる繊維質を発酵させることによってメタンが生成され、口からゲップとして排出されます。家畜からのメタン放出量は、動物の種類や飼料、飼育方法などによって異なりますが、中でも牛が最も多くメタンを放出する傾向があります。特に、食物の中に多く含まれる繊維質や、消化不良のある飼料を与えると、メタンの放出が増加することが知られています。

家畜(反すう動物)の消化器官からのメタン放出は、地球温暖化に大きく影響しています。国際連合食糧農業機関(FAO)によると、家畜からのメタン放出は、全体の14.5%を占めています。家畜の飼料や飼育方法を改善するなど、メタンの排出削減に取り組むことが求められています。


〔参考文献・出典〕
独立行政法人森林総合研究所「季刊森林総研創刊号 - 2008.05」


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