
森林の土壌は樹木の根でしっかり固定されている
土砂災害防止(国土保全)機能とは
森林は、樹木の葉や枝(樹冠)、落ち葉や小枝の重なる層(落葉・落枝層)、土壌のすき間(孔隙)、そして根が張り巡らされた地中構造が組み合わさり、雨滴の衝撃を弱めて表土を守ります。さらに雨水を地中へ浸透・保水させ、ゆっくりと下流へ流すことで、表面侵食や土砂流出を抑える働きを持ちます。
- 樹冠が雨を受け止めて勢いを弱める(遮断)
- 落葉・下草が地面を覆い、土粒子のはね上がりと流出を抑制
- スポンジ状の土壌が浸透と保水を促進
- 根が土粒子をからめ、斜面の安定に寄与
観測・試験の報告では、森林は裸地に比べて土砂流出量が大幅に少ない(1/100〜1/150程度)とされます。ただし、地質・傾斜・降雨強度により差が出ます。
森林が抑える土砂災害のタイプ
森林の保全機能は、以下の災害リスクの低減に関係します。
- 表面侵食:雨滴や表面流による表土の削り取り
- がけ崩れ:浅い斜面崩壊(不連続面や風化帯で発生)
- 地すべり:地下のすべり面で斜面がまとまって移動
- 土石流:谷筋で土砂・礫が一体となって高速で流下
森林はこれらの発生確率や規模の低減に寄与しますが、極端な集中豪雨や地震などでは限界があり、砂防施設やハザードマップ、避難体制などとあわせた総合的な対策が重要です。
森林と裸地の比較(一般的傾向)
項目 | 森林 | 裸地 |
---|---|---|
雨滴の衝撃 | 樹冠・落葉層が衝撃を緩和 | 直接打撃で土粒子が飛散・分離 |
浸透・保水 | 孔隙が多く、浸透・保水しやすい | 表面流が生じやすく、浸透が少ない |
根による補強 | 根系が土壌をひき締め斜面安定に寄与 | 補強がなく、崩壊に脆弱 |
土砂流出量 | 一般に少ない(例:1/100〜1/150の報告例) | 多い(降雨強度に敏感) |
※数値は地域・地質・勾配・降雨条件で変動します。目安としてご理解ください。
機能を高めるため一般的な取り組み
森林が土砂災害を防ぐ力をしっかり発揮できるようにするには、森林を健全な状態に保つことが必要です。そのための取り組みも行われています。
- 間伐(木を間引く):木が混みすぎると根が弱くなるので、適度に切って風通しや光を確保します。
- 草や低木を残す:地面を覆う草や落ち葉は雨から土を守るバリアのような役割をします。
- 山道や水の通り道の工夫:雨水が一か所に集まって土を流さないように、道や水路の形を工夫します。
- 動物の食害を防ぐ:シカなどが草を食べすぎると地面がむき出しになるので、防止対策をします。
- 植林木の多様性(混交化):種類や高さのちがう木を混ぜることで、1年を通して水をため、森のバランスを守ります。
最近は大雨や少雨のばらつきが大きくなっており、気候の変化に合わせた森づくりや、川の上流から下流まで地域全体で協力する取り組みも進められています。
よくある疑問・留意点
- 「森林があれば災害は起きない?」…いいえ。極端な豪雨や地震、特殊な地質では崩壊が生じることがあります。
- 「人工林は弱い?」…適切な間伐や更新、混交化で機能は高まります。管理不足はリスク要因です。
- 「伐採は悪?」…計画的な伐採や皆伐地での速やかな更新・表土保護・排水設計により、豪雨等による影響を抑えられます。
災害対策としては、現地の条件(地質・傾斜・降雨特性)を考慮して対応します。

森は土砂災害からまちを守る
土砂災害ってなに?
大雨がふると、山の土が流れて川や道にあふれたり、がけがくずれたりすることがあります。これを土砂災害といいます。とても危なくて、家や人のくらしに大きな被害をあたえることもあります。
森の地面はスポンジみたい
でも、森があるとちがいます。森の地面は落ち葉や草でおおわれ、ふかふかの土が積み重なっています。そこには小さなすきまがたくさんあって、水をスポンジみたいに吸いこんでくれるのです。
根っこが土をつかむ
木の根っこは土の中でしっかり広がり、まるでネットのように土をつかんでいます。だから雨がたくさんふっても、土が流れにくくなります。これが森の力で土砂災害をふせぐしくみです。
森は「自然のダム」
森の土は水をためこみ、ゆっくりと川に流してくれます。そのおかげで、急な洪水をふせいだり、雨が少ないときも川の水がなくなりにくくなります。だから森は「自然のダム」ともよばれています。
森を大切にすることが安全につながる
森が元気なら、私たちのまちや田んぼ、川や海も元気になります。土砂災害をふせぐためにも、森を大切にして育てていくことが、未来の安全につながるのです。
〔参考文献・出典〕
林野庁「森林・林業白書」各年版(国土保全機能、保安林制度の概要)/国土交通省:砂防・治水に関する解説資料、土砂災害警戒区域等マップ/学術的レビュー:森林土壌の孔隙率・浸透能、根系の補強効果に関する研究