栗(くり・クリ) 縄文時代 鉄道の枕木 栗の巨木

●タブシタ

栗(くり・クリ)~縄文時代から使われてきた良材

●ブナ科クリ属

●北海道南部、本州、四国、九州に分布

栗といえば、秋の味覚として親しまれています。さらに、クリ材は知る人ぞ知る優良材で縄文人も積極的に使用していたようです。現在でも、鉄道の枕木や世界遺産の合掌づくりの主要部材として使われています。

クリの天然林
(群馬県赤城山)

クリの天然林の写真
 
栗の花の写真 栗の雌花 クリの果実(栗の実)の写真

栗の雄花。初夏に咲き、特有の匂いがする

栗の雌花

クリの果実はトゲトゲのいがが特徴

クリの葉の写真 クリの樹皮(幹)の写真 クリは知る人ぞ知る優良材

葉はクヌギとよく似ている

クリの樹皮は縦に裂ける

クリの材鑑



「秋になると食べたくなるもの」のランキング

対象は22歳~69歳の男女。有効回答は1,008人。調査日は2013年9月4日。株式会社ドゥ・ハウス。

右の表は「食欲の秋」に関するWEBアンケート「秋になると食べたくなるもの」の回答結果です。

ランキングの中で、木に関する食材の第1位は「栗」で49.9%。単純に計算すると、日本人の約半数は秋になると「栗」を食べたくなるようです。また、遺跡の調査によると、栗は数千年前の縄文の時代から食材(食糧)や木材として使われていたようです。

なお、ランキング中、木の実、果実など(木に関係する食材)が半数以上を占めています。私たちは木を「木材」として利用しているだけでなく、「食材」として利用し、親しんでいることがわかります。


縄文時代は「クリ」の時代

日本は「木の文化」を育んできた国といわれ、主に杉(スギ)や桧(ヒノキ)などの針葉樹とともに歩んで来ました。一方、広葉樹もその例外ではなく、ブナやナラ、クリなどが身近で使われてきました。

クリ材で建てられた大型掘立柱建物の写真

三内丸山遺跡の大型掘立柱建物はクリ材で建てられていた(縄文時代前期)

中でもクリは縄文時代から、食材や木材として使われており、特に「縄文はクリの時代」と言われるほどよく使われてきたことがわかっています。

クリは、「桃『栗』3年…」と言われるように、成長が早く、実が安定して収穫できる重要な食糧であり、材は、水湿に強く、腐りにくく、しかも、クリ材は割りやすく、加工が比較的容易にできることなどが、古くから使われている理由と言われています。

遺跡の調査によると、丸太材を半割にして、円形に並べたウッドサークルや住居跡、低地に打ち込まれた杭群、水場遺構、漆器木地や各種木器などのほとんどでクリ材が使用されているとのことです。また、ゴミ捨て場から出る炭化材の80%はクリであったという調査結果(※)もあります。

※三内丸山遺跡(縄文時代前期)の調査

さらに、住居の炉跡に残る燃え残りの炭などもほとんどがクリで、燃料としても使われていたこともわかっています。

縄文の人々は、栗の実をとって食糧とするとともに、クリの木を伐って木材として利用し、利用したあとは、燃料として利用していたようです。

もちろん、燃料として、燃やしても、カーボン・ニュートラル(※)の考え方から、大気中の二酸化炭素を増やすことはなく、それが原因で温暖化が起こることもありません。

縄文の人々は、自然の恵みであるクリの特性について、経験により学び、木材のリサイクル性を活かし、すべて無駄なく利用するエコロジーな生活を営んでいたようです。

※一般にモノを燃やすと、温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)が発生します。しかし、自然界にあるバイオマスと呼ばれるもの(木や草、穀物など)を燃やしたときに発生するCO2は、もとは大気中のCO2を植物が光合成により取り入れたものです。つまり、バイオマスを燃やしたときに発生するCO2は大気に戻っただけで、長期的にみれば、大気中のCO2の増減はなく、循環しているだけという考え方を「カーボン・ニュートラル」と言います。

※ここでは、三内丸山遺跡(青森県)の例を紹介していますが、全国各地の縄文時代の遺跡からも、クリの大量の出土が見られます。


世界遺産や鉄道を支えるクリ材

合掌づくりの主要部材は主にクリ材が使われている(世界遺産・岐阜県白川郷)

ほとんどの人にとっては、栗といえば、食材としての栗のイメージが強いと思います。しかし、クリ材は知る人ぞ知る優良材です。水湿にすこぶる強く、防虫・防腐処理をしなくても長期間使えるほどの耐久性があります。今でも民家の土台や鉄道の枕木など、強度と耐久性が必要な箇所に使われています。

鉄道の枕木にもクリ材が使われる

世界遺産となっている岐阜県白川郷や富山県五箇山の合掌づくりの主要部材のほとんどがクリ材(※)です。土台や柱をはじめ、台所や紙漉きの仕事が行われる水気の多い土間などにもクリ材が使われています。

※古い時代のものほどクリが多く、最近はクリ材の入手が難しくなってきたため、時代が下るにつれて徐々に代替材に変わってきています。

また、クリ材の強度は鉄道の枕木に使用されるほど強い材です。鉄道の枕木は何年も風雪に耐え、しかも、1本につき約1.5トン(※)もある重いレールの土台となり、車両が安全に通過できるように支えているのです。

※レール1本25m(1mあたり60kg)として計算


クリ製品を制作している工房・メーカ

クリの古材を使って制作された小物の写真

クリの古材を使って制作された小物

クリ材の強さや杢目の美しさを活かした製品も多くあります。

フローリング材やデザイン家具、また古民家を解体したときに出る古材を使って味わいのある渋い魅力の木製品を制作している工房などがあります。



栗の巨木紹介

材として使うクリの木は、実を採るための栗畑と違い、人が植えたものではなく、山に生えているものがほとんどと言われています。今では、山に生えているクリの木は、少なくなったようですが、全国各地には、多くのクリの巨木が見られ、保護されている木も多くあります。ここでは、そのいくつかを紹介いたします。

名称 所在地 特記事項
昭和の森のクリ 北海道 野幌自然休養林にある推定樹齢500年のクリの巨木。明治の開拓以降、周辺の木々は伐採されましたが、一番大きなこのクリの木だけは「ご神木」として保護されたとのことです。
薬研のクリ大木 青森県 下北半島大畑町の葉色山国有林内で青森ヒバとブナが混交林の中に、大きな枝を広げてどっしりと鎮座しています。林野庁の森の巨人たち百選に選ばれています。推定樹齢は800年。
市野々の大クリ 岩手県 市野々集落最奥の天狗地区。民家裏手の斜面に根をおろしてます。地元では「てんぐさま」と呼ばれ、人々は長いこと神様の木として崇めてきたそうです。推定樹齢650年。
日本一のクリ 秋田県 田沢湖抱返り県立自然公園内「抱返り渓谷」の切り立った断崖状の地形に生育。天然のクリの大径木は稀少で、幹周り8.1メートルが日本一と言われています。推定樹齢は200~300年。
日根牛の大クリ 宮城県 推定樹齢が300年以上でありながら、樹勢はまだまだ旺盛です。夏には開花し、秋には結実し、たくさんのクリを降らせて、町の人々を楽しませています。
豊牧のクリ 山形県 豊牧地区の五郎八沼のほとりの堤防に生えています。護岸工事の際にも伐採されず残されたとのこと。太い幹には、木蔓がからみついています。
大井沢の大クリ 山形県 周辺の自然林は、製炭用の原木として、伐採されましたが、巨木のため、伐採を免れたクリの木。推定樹齢800年でありながら、樹勢が旺盛。毎年たくさんの実をつけています。
馬頭院の枝垂栗 栃木県 水戸光圀が巡視の際に、馬頭院に参詣し、記念に常陸国の多賀から珍しい枝垂栗を移植されたとのこと。約15日の間をおいて3回開花するので三度栗とも言われています。
小野のシダレグリ自生地 長野県 800本以上のシダレクリが純林を形成。突然変異により独特の樹形になったとのことです。特に冬の時期に裸木に雪の降った直後の景観は圧巻と言われています。
大洞のクリ 岐阜県 幹には落雷による大きな空洞ができています。頼朝に敗れた木曽義仲の残党今井四郎兼平の夫人が逃れ、この地に住んだ時に植えたと言われています。推定樹齢800年。
猫ヶ島の弥四郎の大栗 石川県 1758年、白山麓の田地開拓時に記念に植えられた栗の木。スキーと温泉のリゾート地にあり、国民宿舎の裏手の自然をそのまま残した林の中で手厚く保護されています。推定樹齢250年。
平子のタンバグリ 広島県 推定樹齢500年、冬には枯れ木のようになりますが、樹勢はきわめて旺盛で着果も良好。根元付近には主幹に大きな裂け目があり、かつてはミミズクが棲んでいたとのことです。

※他にも、吉ヶ谷の大栗(埼玉県)、秋神温泉の栗(岐阜県)などがあります。


〔参考文献・出典〕
秋岡芳夫著「木のある生活」TBSブリタニカ/木づかい友の会通信 第80号「縄文人も使い、親しんだ栗(クリ)」/日本の原点シリーズ「木の文化」新建新聞社/日本の巨樹・巨木/宝印刷株式会社「ji 2009.summer.Vol.61」