現代の林業が抱える課題と対策

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日本の森林は国土の約7割を占め、その多くが戦後に植えられた人工林(スギやヒノキなど)です。これらは伐採して利用できる「収穫期」を迎えつつあり、木材を国産でまかなえるチャンスが広がっています。

しかし、伐採から再造林(木を伐ったあと新しく植えること)までを確実に行わなければ、森は荒れてしまいます。また、林業を持続的に経営するためには、コスト面や人材面など多くの課題が存在します。以下に主な課題とその対策を整理してみました。

01/08

持続可能な林業経営と国産材の安定供給

木を〈伐る→植える(再造林)→育てる→使う〉という循環をきちんと回すことが、森を守りながら暮らしにも役立てる第一歩です。山の中の道(林道)や機械を整えれば作業は安全・効率的になり、コストも下がります。さらに住宅やオフィス、学校などで国産材をもっと使えば、山元にお金が還元され「採算の取れる持続可能な林業」が実現します。

課題

  • 再造林の実施が不十分だと森林が「伐り捨て」状態になり、資源の循環が途絶える。
  • 林業はコスト高で収益が安定しにくく、経営者の意欲が持続しにくい。

対策

  • 森林経営を担う人材を育成し、森林を集約して効率的に管理できる体制をつくる。
  • 林道(木材を搬出するための道路)や高性能林業機械の整備で作業効率を上げる。
  • 木造住宅や中高層建築物に国産材を使い、需要を拡大する。

➡ 例:CLT(直交集成板)などの新しい建材を用いた「木造ビル」の建設が広がれば、国産材の価値が高まり、街の景観も変わっていきます。

02/08

森林経営の集積・集約化

日本の森は持ち主が細かく分かれ、境界もあいまいな場所が多く、手入れが止まりがちです。境界をはっきりさせ、離れた小さな林をまとめて管理できるようにすると、計画が立てやすく、費用や時間のムダも減ります。制度や税財源(森林環境譲与税)を活用し、市町村や専門の担い手が連携して進めることが大切です。

課題

日本の森林は小規模・分散所有が多く、所有者が不明な場合も少なくありません。このため、効率的な管理が難しくなっています。

対策

  • 改正森林経営管理法(2026年度施行予定)に基づき、市町村が森林管理を代行できる仕組みを円滑に運用する。
  • 境界の明確化を進め、森林環境譲与税(森林整備のための税収)の有効活用を支援。

➡ 森を「バラバラに所有する状態」から「まとまって管理できる状態」に変えていくことが重要です。

03/08

森林整備と災害に強い森づくり

大雨や台風、地震、山火事が増える中、手入れの行き届いた森は“緑の防波堤”として私たちを守ります。混み合いすぎた木を間引く間伐や、伐った後の植え直し、土砂を食い止める治山工事を計画的に進めることで、被害を小さくできます。日頃からの備えが、いざという時の強さにつながります。

課題

近年、地震や豪雨、台風などで山地災害が頻発し、さらに林野火災も増加しています。森林の管理不足は災害リスクを高めます。

対策

  • 間伐(木を間引く作業)や再造林を進め、健全な森林を維持する。
  • 山腹崩壊や土石流を防ぐための治山工事や事前防災対策を強化。
  • 林野火災に対応する消防体制を整備。

➡ 健康な森林は「緑の防波堤」として、土砂災害や洪水を防ぐ役割を果たします。

04/08

担い手不足と人材育成

山の仕事は高齢化が進み、人手が足りません。安全教育や最新機械の導入で危険を減らし、安定した働き方や学べる場を増やせば、若い世代も挑戦しやすくなります。外国人材や多様な働き方の受け皿を広げることも、現場の力を取り戻すカギです。

課題

林業就業者は高齢化が進み、若手が不足しています。さらに、山林での作業は危険が多く、安全面での課題も大きいです。

対策

  • 「緑の雇用」制度で新規就労者を育成し、定着を支援。
  • 林業大学校などでの専門教育、技能検定制度「林業技能検定(厚生労働省)」の推進。
  • 外国人材の受け入れや多様な働き手を確保する仕組みづくり。

➡ 「安全で安定した仕事」として林業を魅力ある産業に育てることが、未来の森林経営を支えるカギです。

05/08

花粉症対策(スギ人工林問題)

多くの人が悩む花粉症の大きな原因はスギ花粉です。花粉を多く出す高齢のスギを計画的に伐って、花粉の少ない苗木へ植え替える取り組みを広げれば、健康被害の軽減に直結します。同時に、伐ったスギを建材などで有効活用し、伐って使うサイクルを回すことが林業の活性化にもつながります。

課題

日本人の約4割が花粉症に悩まされており、その主原因はスギ花粉です。全国に広がるスギ人工林は高齢化し、伐採と植替えが進んでいません。

対策

  • 花粉を多く出すスギを伐採・更新し、花粉の少ない苗木へ植え替える。
  • スギ材の需要拡大を進め、伐採した木を無駄なく利用。
  • 路網整備や労働力確保で作業効率を高める。

➡ 花粉症対策は「健康被害の軽減」と「林業の再生」を同時に実現する一石二鳥の施策です。

06/08

スマート林業(デジタル化・技術革新)

ドローンやレーザー(LIDAR)で森の状態を「見える化」し、地図やデータで共有すれば、無駄のない計画が立てられます。遠隔操作や自動化に対応した機械は安全性と生産性を高め、重労働の負担を減らします。山から製材・流通・建設までデータをつなぐことで、歩留まり(むだなく使える割合)も向上します。

課題

林業は今も人力に依存する部分が多く、生産性が低いのが課題です。

対策

  • ドローンやレーザー測量で森林資源を正確に把握。
  • 自動化・遠隔操作型の林業機械を開発・導入。
  • 生産から加工・流通までデータを共有し、無駄を削減。

➡ こうした「スマート林業」は、若者にとっても魅力ある産業への転換につながります。

07/08

山村地域の活性化

森は木材だけでなく、エネルギー(バイオマス)や食・工芸の特産、観光・教育のフィールドなど、多くの可能性を秘めています。里山整備や獣害対策を進め、都市企業との協働や「半林半X(林業+別の仕事)」の働き方を広げれば、暮らしと仕事の選択肢が増え、地域に活気が戻ります。森と人の距離を縮めることが、山村の未来を明るくします。

課題

林業と密接に関わる山村は人口減少や高齢化で活力を失いつつあります。また、シカやイノシシによる獣害も深刻です。

対策

  • NPOや自伐林家が主体となる里山整備や森林空間の活用を支援。
  • 獣害対策やバイオマス(未利用材のエネルギー利用)の推進。
  • 特用林産物(しいたけ、山菜、漆など)の生産振興。
  • 「半林半X」(林業と他の職を組み合わせた暮らし方)の普及。

➡ 森と暮らしを結び直すことで、山村の経済や文化を再び元気にすることができます。

08/08

まとめ:林業の課題と対策の要点

森林は木材の供給源であるだけでなく、災害防止や二酸化炭素の吸収、地域文化の維持にも欠かせません。

課題は多岐にわたりますが、再造林の徹底、デジタル技術の導入、担い手育成、花粉症対策などを組み合わせることで、持続可能な森林・林業を実現する道が開かれます。

そして、私たち一人ひとりも「国産の木材を選ぶ」「森林に関心を持つ」といった小さな行動で、その流れを支えることができます。

森のなやみとみんなでできること

日本の森は国土の約7割をしめています。スギやヒノキなどの人工林(人が植えた森)は、ちょうど「使いどき」をむかえています。でも、木を切ったあとに新しく苗木を植える再造林(さいぞうりん)が追いつかないと、森がよわってしまいます。

また、森の持ち主がたくさん分かれていて手入れができない場所もあります。大雨や台風で山崩れや洪水がおきやすくなったり、スギ花粉で花粉症に悩む人がふえたり、山で働く人が少なくなったりと、いろいろな問題が出てきています。

そこで大切なのは「森を元気にする行動」です。たとえば、間伐(木を間引くこと)で残った木を健康に育てること、災害をふせぐために治山(ちさん)工事をすること、花粉の少ない苗木に植えかえること、ドローンやレーザーで森を調べるスマート林業など、新しい方法も使われています。

私たちにできることもあります。国産の木で作られたえんぴつやノートを選ぶ、木のものを長く大切に使う、植樹体験に参加するなど、小さな行動が未来の森を守ります。森は空気や水をきれいにし、たくさんの生き物を育てる大切な場所。みんなで守り育てていきましょう。

森林・林業学習館 for きっず

〔参考文献・出典〕
林野庁資料、国土強靱化実施中期計画、森林・林業基本計画 等


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