合掌造り - 大きな三角屋根の民家

「合掌造り」は、豪雪地帯の農家の建築様式で雪を落とすための急勾配の茅葺き屋根を持つ日本の雪国の特徴的な民家(大きな三角屋根の家)です。多くは、江戸から明治期(17世紀~20世紀初期)に建てられたものですが、今でも多くの人が生活を営んでいます。合掌づくりには雪国らしい工夫や内部の空間を有効かつ快適に使う工夫など、昔の人々の知恵や歴史が息づいています。

白川郷(岐阜県大野郡白川村)と五箇山(富山県南砺市)の合掌造り集落は、1995(平成7年)年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。

合掌造り集落の写真

合掌造り集落(富山県南砺市)。民家の裏の山は「雪持ち林」と呼ばれ、伐採を禁じ、雪崩から家々を守っています。

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合掌造りの名の由来

合掌づくりは、豪雪地帯で見られる茅葺きの切妻屋根(本を少し開いて立てたような屋根)をもつ民家です。屋根が大きく傾斜しているのは、降り積もった雪を自然に落下させ、雪の重さで家がつぶされるのを防ぐためです。屋根裏まで入れると4~5階建になるものもあり、1階と2階が住居、3階以上はおもに物置や食料の乾燥庫、かつては養蚕の作業場として利用されてきました。養蚕が行われなくなった今は、次の葺き替えのための茅を毎年少しずつ貯蔵している民家もあります。

合掌造りは「合掌」という名から、手を合わせたときの形が屋根の形に似ていることがその名の由来という通説があります。しかし、手のひらをぴたりと合わせても、合掌づくりの屋根のようにはなりません。実は、手をぴたりと合わせたときの「両腕全体の形」に似ていることが「合掌造り」の名の由来です。

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合掌造りを支えるクリ材

白川郷や富山県五箇山の合掌造りの主要部材は、ほとんどがクリ材です。クリ材は知る人ぞ知る優良材です。風雪に耐え、水湿にすこぶる強く、防虫・防腐処理をしなくても長期間使えるほどの耐久性があります。一般の民家でも土台や柱をはじめ、台所やなど水気の多い土間などにもクリ材が使われていることがあります。また、クリ材は鉄道の枕木など、強度と耐久性が必要な箇所にも使われています。

※合掌造りでは、古い時代のものほどクリ材が多く使われています。最近はクリ材の入手が難しくなってきたため、時代が下るにつれて徐々に代替材に変わってきています。

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風向きと採光が考慮された集落

白川郷集落

白川郷集落

合掌づくりの集落をみると、ほとんどが同じ向きに建てられています。これは、屋根が受ける風の抵抗を最小限にするためです。例えば白川郷では、南北に伸びる谷あいの川に沿って、強い冬の季節風が吹くため、屋根の棟(屋根のてっぺん)が北流する庄川に平行になるように建てられ、屋根は東西に面しています。また、屋根に当たる日照量が適度に調節され、夏涼しく、冬は保温されるようになっているとのことです。白川郷の展望台からは、集落全景を一望でき、家々の向きが美しく揃っている様子を見ることができます。

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合掌造りのかんざし(棟飾り)

かんざし(棟飾り)の写真

かんざし(棟飾り)により棟が護られています

合掌造りでは、巨大な切妻屋根に大きな茅の束を積み上げ、その上を丸太で押さえつけています。さらに、かんざし(棟飾り/ミズハリ)と呼ばれる屋根の上部を水平に貫いた丸太は、棟(屋根のてっぺん)を締め付けます。

日本髪のかんざしは、装飾を兼ねながら、髪が風で吹き崩されるのを防ぎます。同じように、合掌づくりのかんざしは、シンボル的な意味合いとともに、棟が強風で吹き飛ばされるのを防いでいます。

また、一般の茅葺きの民家では風や雪から屋根を護るために、竹で覆ったり、土止めで根の張る植物であるイワヒバを植えてある屋根もあります。

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雪国ならではの工夫

合掌造りの屋根裏の写真

合掌造りの屋根裏。釘をいっさい使わないことで風雪に耐えることができます(写真:白川村役場)。

合掌づくりの屋根裏の部材は釘などの金物で固定することはありません。マンサクの若枝を水につけて、繊維を柔らかくした「ネソ」でしばることが多いようです。「ネソ」は乾燥するとしっかり締まります。また、煤(すす)けることにより針金のように強くなる縄などで縛られた屋根組などもあります。部材の結束に金物を使わないことで弾力性が生まれるため、雪の重みや強い風を受け流せるようになっているとのです。

また、雪の多い地域にあるため、土壁では、はがれやすいので、はめ込み式のパネル形の板壁や杉皮を貼っていることも、合掌造りの特色です。

合掌造りの家の板壁の写真

合掌造りの家は板壁でできています。

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屋根の茅が長持ちする理由

屋根を葺(ふ)くための茅(かや)とは、ススキやヨシ、チガヤ、などの長い茎や葉のある植物の総称です。屋根に葺く茅は自然の草地から、持ってくるのではありません。茅場と呼ばれる先人から引き継いできた草地で育て、毎年収穫し、屋根裏などに少しずつ蓄えておきます。茅場も森林(育成林)と同じように、人がつくり大切に守ってきたものです。

茅で葺く屋根は急勾配です。しかし、くぎなどの金物を使わず、木と縄だけで三角形を基本に組まれて、激しい雨や雪の重みにも耐える柔軟でしなやかな構造になっています。

茅葺き屋根の寿命は40年~50年もあります。長持ちの理由は、毎日、囲炉裏で煮炊きをすることにより、囲炉裏からは煙が立ち続け、それらが茅に付くことで防虫効果が発揮されるからです。茅だけでなく、屋根裏の部材も煙でいぶされ、いわゆる「燻蒸(くんじょう)」効果で、建物自体も長持ちします。合掌造りなど日本の古民家は、人が生活を営むことで長持ちするのです。人間が生活を営まない場合、寿命は半減するといわれています。

茅葺き屋根の葺き替え

茅葺き屋根の葺き替え(写真:wikipedia)

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世界的に高い評価を受けている合掌づくり

世界文化遺産「白川郷・五箇山の合掌造り集落」に登録されている合掌づくりは3箇所あります。岐阜県大野郡白川村「荻町集落(白川郷)」、富山県南砺市の「相倉集落(五箇山)」と「菅沼集落(五箇山)」です。これらの世界遺産は、法隆寺や姫路城などのように、モニュメント的なものではなく、山間に住む一般の人々が生活し、自然との共生の中で育まれてきたものです。

ドイツの建築家ブルーノ・タウト氏は「合掌造り家屋は、建築学上合理的であり、かつ論理的である」と絶賛。そして、白川郷に訪れたときには、「私がこれまで一度も見たことのない景色。これはむしろスイスか、さもなければスイスの幻想だ」と述べ、大変な感銘を受けられたようです。タウト氏の高い評価により、日本の合掌造りは世界中の人々の関心を集めるようになったといわれています。

冬の白川郷の写真

冬の白川郷


〔参考文献・出典〕
白川村役場ホームページ/川崎市立日本民家園/新建新聞社 日本の原点シリーズ 木の文化「橅・楢・栗」/NHK ニッポンの里山「小さなネズミがすむカヤ場」、「雪国の暮らしが育む森」/NHKシリーズ世界遺産100「合掌造りを守る 白川郷 五箇山」/wikipedia


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