さまざまな側面を持つ松(マツ)

日本人にとってマツは馴染みのある樹種。景勝地をつくったり、私たちの生活を守ったり…。利用用途も多く私たちの生活を支えています。

日本人に親しまれている「松(マツ)」

松は杉や桧(ヒノキ)と同じように、古くから、私たち日本人の生活の中で共に生きてきた樹種で日本人に親しみのある樹木と言えるでしょう。それを物語るように、日本には、松の付く地名や名前が多くありますし、身近な庭園や公園、ガーデニング、門松、盆栽などでもお馴染みの樹木です。

私たちの先祖は美しい松原の海岸を「白砂青松」と呼びました(愛媛県/ 来島海峡 )


日本でみかける松

ところで、樹木には単に「マツ(松)」という樹種はなく、日本で見かける松は、「アカマツ(赤松)」、「クロマツ(黒松)」、「ゴヨウマツ(五葉松)」、「ヒメコマツ(姫小松)」、「ハイマツ(這松)」、「リュウキュウマツ(琉球松)」、「ヤクタネゴヨウ(屋久種子五葉)」、「チョウセンゴヨウ(朝鮮五葉)」の8種(マツ科マツ属)と分類上の属は違いますが、同じマツ科の「トドマツ(椴松)」「エゾマツ(蝦夷松)※」「カラマツ(唐松)」などがあります。

※エゾマツは、クロエゾマツとアカエゾマツの総称。

中でも、「アカマツ(赤松)」と「クロマツ(黒松)」は本州北部から九州、屋久島まで生育し、私たちに身近な松と言えるでしょう。

アカマツは、その名のとおり、樹皮が赤みを帯びて見え、真っ直ぐに伸びるものが多く、私たちの身の回りでよく見かけます。クロマツは、樹皮が黒ずんで見え、海岸に生育しているものが多く見られます。


日本独特の景勝地をつくるマツ

マツは海岸や湖沼の景観を引き立て、日本各地の景勝地・名勝地をつくる主役となっているようです。アカマツは姿が美しいことから、身近な公園等に植えられますが、クロマツは曲がりくねった樹幹が海岸の砂浜や岩礁との相性がよく、海岸の風景を引き立てます。日本には、古くから名松と呼ばれるマツや松原があります。

日本の白砂青松100選、日本の渚百選、かおり風景100選、日本の道100選にも選ばれている 佐賀県唐津港の虹の松原

景勝地 所在地 備考
風の松原 秋田県 厳しい海風による飛砂を防ぐために江戸時代から植栽が続けられ、現在では700万本のクロマツ林となりました。日本最大の規模の松林となっています。
お宮の松 熱海海岸 尾崎紅葉の「金色夜叉」の中で、間貫一とお宮の別れの場面の舞台になったといわれています。その側には、貫一・お宮の像も建っており、オルゴールが流れてきます。
美保の松原 静岡県 約7kmの海岸線に5万4千本の松が茂る三大松原のひとつ。波打ち際から望む富士山は圧巻。御穂神社から南に続くの参道「神の道」の先には、天女伝説の「羽衣の松」があります。
相生の松 全国 黒松(雄松)と赤松(雌松)の幹が途中で合わさったもので、夫婦の契りの深さにたとえられています。 兵庫県高砂神社の相生松は、謡曲「高砂」で知られています。
弁慶松 和歌山県 弁慶の記念に植えられた松。天正年間に豊臣秀吉の武将が田辺に城を築く時、周囲5つ抱えもある弁慶松を切って台所の梁に使ったと言われています。
気比の松原 福井県 三保の松原、虹の松原と並ぶ.日本三大松原のひとつ。普段は静かでひっそりとした場所で日本海の荒波ともあいまった壮麗な風景となっています。冬には松林一体が雪化粧されて美しい。
築地松 出雲地方 出雲地方の民家の北西に防風林として植えられています。厳しい冬の季節風から屋敷を守ります。主に黒松が植えられており、出雲地方独特の景観をつくっています。
関の五本松 島根県 昔、舟人たちが入港の目印としていた五本松。後に大名行列の邪魔になると一本が伐られた。 この松を後世に残したいという気持ちが民謡「関の五本松」になったと言われています。
虹の松原 佐賀県 長さ約5kmにわたる弧状の黒松林。多くの観光客が訪れ、両側から張り出した松の枝によって造られた自然のトンネルも、多くの人から絶賛を受けています。

民家や畑を守るクロマツ

クロマツの砂防林

クロマツが海岸に多く見られるのは、上記の松原の例のように防風林や砂防林として海岸に植林されたことが理由の一つです。クロマツは貧土壌で、常に潮風にさらされるような海岸でも生育できる樹種だからです。海岸にはタブノキ、ウラジロガシなどの広葉樹も見られますが、クロマツのように最前線に生育することはありません。

防風林や砂防林が作られる以前は、畑や住居が海岸からの砂で埋まってしまうことがしばしばあり、住民は苦しんでいたそうです。これらの林は、地域住民によって江戸時代より長い年月を経て植林され、多くの人の努力のもとに育てられて今日に至っています。

現在、防風林や砂防林は、林野庁管轄の森林管理署をはじめ、地方公共団体、民間の団体により、管理され、人々の生活が守られています。


被災地 海岸林再生プロジェクト

白浜にクロマツの並ぶ美しい風景を取り戻すことを復興の目標とシンボルとしたい
(宮城県名取市/写真:OISCA 2012年4月号)

押し寄せた津波は、途方もない範囲で海岸のクロマツをなぎ倒し、子どもの頃から親しんだ、ふるさとの景色を奪いました。

およそ400年前から、仙台平野一帯では海岸林が造成され、飛砂や塩害、強風や高潮から人々を守るとともに、荒廃地を農地へと変えてきました。しかし、東日本大震災による津波により、被災地全域で約3600haの海岸林が被害を受けました。

「クロマツお助け隊」と名づけられた海岸林再生プロジェクトは、10年計画で被災地住民の有志による苗木生産グループが約50万本のクロマツの苗木を育てるというものです。その根底には、ふるさとの白浜にクロマツの並ぶ美しい風景を取り戻すことを復興の目標とシンボルにしたいという地元住民の願いがあります。


〔出典〕
記事:林野庁情報誌「林野」平成24年4月号/写真:公益財団法人オイスカ


香ばしい香りの松茸

マツ林の松の葉が使われなくなり、松茸が生育環境に適さなくなってきています

松茸は主に栄養分の少ないアカマツ林などに生育すると言われます。マツタケは独特の香ばしい香りがあり、食用として珍重されています。昭和30年代の燃料革命の前までは、マツ林のマツの落ち葉は集められ、炊きつけなどの燃料に使われていました。しかし、最近はマツの葉も使われなくなり、マツ林の落ち葉が多くなり、富栄養化してマツタケの生育環境に適さなくなり、その結果、マツタケはますます珍重されるようになったと言われています。また、クロマツ林にも、食用キノコとして珍重される「ショウロ」があります。


活用範囲が広いマツヤニ

松の幹に傷を付けると、そこから松脂(マツヤニ)が流出してきます。マツにとっては、傷の消毒と修復の役割の担っていると言われています。

一方、人間にとっては、さまざまな用途があります。松脂が固形物になったものは、ロジンと呼ばれます。ロジンは紙を作るときのにじみ止め剤としての役割を担っています。他にも、塗料、合成ゴム、バイオリンの弓、野球のピッチャーが使うロジンバック、絆創膏の粘着剤、書道や書画の墨など、マツヤニは他の樹木の成分には見られないほど多くの用途に利用されています。


心身の健康維持に役立つマツの成分

樹木の揮発成分は一般に心身の健康維持に役立つことが多いのですが、マツも例外ではありません。
例えば、マツの樹皮には、多くのポリフェノール類が含まれています。ポリフェノール類は老化やガン、動脈硬化の原因とされている活性酸素などの物質から身体を守る物質(抗酸化物質)です。海外では健康を維持する商品として市販されています。日本での主な活用事例は次のとおりです。

樹種 効能 信憑性
アカマツの松葉 お茶として飲むと、コルステロールを減らし、心筋梗塞、高血圧の予防。 民間伝承
アカマツ松葉酒 貧血、不眠症の予防。 民間伝承
クロマツの葉 血圧を下げる、咳止め、痰を取り去る作用。 民間伝承
マツヤニの成分
(アビエチン酸及び誘導体)
抗炎症効果、抗菌作用、抗歯周病、血中糖濃度低下作用、血中コレステロール低下作用、抗潰瘍作用。 科学的解明
マツの香り成分
(α-ピネン)
α-ピネンを漂わせて部屋で睡眠をとると、疲労回復が早く、仕事でミスタイプが減る。マウスの運動量が増加。 科学的解明

私たちの生活を支える松(マツ)

かつてマツは、燃料や刀鍛治に使われており、今でも、建築材やパルプなどの用途として使われています。一方、家庭のキッチンや家具などとして直接的に使われることは少ないようです。しかし、松原が防風林などとして風雪に耐えることにより、私たちの生活が守られ、マツに由来する紙製品や絆創膏、塗料、ゴムなどの生活必需品などもあります。さらに、マツタケは日本独特の食文化の一端を担っています。マツは、他の樹種では代替できない用途として私たちの生活を支えているようです。


〔参考・引用〕
「文化を育んできた木の香り」(谷田貝光克/フレグランスジャーナル社)/wikipedia、さがすばんだ、熱海市ホームページ、能代市ホームページ、静岡観光コンベンション協会/木づかい友の会通信(第63号)