木材が強い理由と進化する木質構造技術

私たちがよく目にする建築材料の中で、木材は「軽くて弱い」というイメージを持たれがちですが、実は建築材料の強度を“重さあたり”で比較する「比強度」という指標で見ると、木材は鉄やコンクリートを上回る優れた素材であることが実験によって明らかになっています。

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木材の比強度とハニカム構造

軽くても強い木材の秘密

鉄やコンクリートはとても強い材料で、ビルやマンション、工場などの大型建築物によく使われています。これらの材料には共通点があります。それは「重い」ということです。一般的に、重い材料はそれだけ強い傾向があります。

しかし、同じ重さ(たとえば1kg)で比べたときの「強さ」はどうでしょうか? これは「比強度(ひきょうど)」と呼ばれ、材料1kgあたりの強さを表します。以下のグラフは、さまざまな材料を引っ張ったり、押しつぶしたり、曲げたりする実験を行った結果です。

たとえば、最初のグラフは「引っ張り強さ」の比較です。鉄でも強い力で引っ張れば、最終的には切れてしまいます。しかし、比強度で見ると、木材は鉄よりも引っ張りに強いのです。

建築材料の比強度グラフ

建築材料の比強度

さらに、圧縮や曲げに対しても木材の比強度は非常に高く、他の材料を上回ることがわかります。つまり、木材は「軽くて強い」素材であり、少ない量でも高い強度を発揮できる優れた建築材料なのです。

木材の強さの秘密はハニカム構造

木材のハニカム構造

木材の断面を電子顕微鏡で見ると、細い管状の細胞がびっしり詰まっている(ハニカム構造)

では、なぜ木材は軽いのにそんなに強いのでしょうか? その理由は、木材が「ハニカム構造」と呼ばれる特殊な形をしているからです。

木材を電子顕微鏡で拡大して見ると、中は無数の細胞でできており、それぞれが空洞のパイプのような形をしています。このような構造は、まるで蜂の巣のように、少ない材料で強さを発揮できる仕組みになっています。

ハニカム構造は、飛行機の翼やダンボールの断面など、強度と軽さが求められる場所でも使われている構造です。

このように、木材は軽くて強い、自然が生み出した優れた建築素材だと言えるのです。

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進化する木質構造技術 ― 燃えにくく湿気に強い木材の可能性

近年、木材は「燃えやすい」「湿気に弱い」といった弱点を克服しつつあり、技術の進歩により燃えにくく湿気に強い構造材が実用化されています。特にCLTや集成材の登場によって、木造建築の可能性は大きく広がりました。中層建築や公共施設にも広く使われ、RC造や鉄骨造と並ぶ有力な構造方式のひとつとして注目されています。

1. 燃えにくい木材の開発

木材は本来可燃性の高い素材ですが、特殊な加工により、耐火性が大きく向上しています。

  • 耐火処理木材:薬剤処理や耐火塗料で燃焼速度を抑え、火災時の安全性を高めた木材。
  • CLT(Cross Laminated Timber):直交集成板。厚い板を縦横に交差させて接着した構造材で、燃えても表面が炭化し内部を守る性質がある。
  • 燃え止まり効果:一定の厚みのある木材は、燃えると表面が炭化層を形成し、内部への延焼を防ぐ。

2. 湿気に強い木材への対応

湿気や腐朽に対しても、さまざまな技術が取り入れられています。

  • 高温乾燥処理:木材の含水率を調整し、反りや腐朽を防止。住宅用構造材として主流。
  • 防腐・防蟻処理:薬剤を注入することで、シロアリやカビの被害を防ぐ。
  • 集成材:複数の木片を接着してつくる構造材で、湿度による変形が少なく、均質な強度を持つ。

3. 中高層建築への木造利用

これまで木造は2~3階建てまでが一般的でしたが、近年は技術の発展により中高層の木造建築も増加しています。

  • CLTを活用した5階建て、7階建ての集合住宅
  • 道の駅、学校、図書館など公共施設での木造採用
  • 木造であっても準耐火・耐火建築物として認定される技術基準が整備

4. 木材を使うことの環境的メリット

木材は、持続可能な資源であり、伐採と植林のサイクルによってカーボンニュートラルを実現できます。

  • 炭素固定:成長過程で吸収したCO?を構造材として長期的に貯蔵可能。
  • 製造時のCO₂排出が少ない:鉄やコンクリートに比べ、エネルギー消費が少ない。
  • 再生可能資源:林業との連携により、地域経済の循環にも貢献。

木質構造技術は日々進化しており、従来の「弱い」「燃える」「腐る」という印象は過去のものになりつつあります。
現代の建築において木材は、環境にやさしく、性能も高い選択肢として再評価されており、これからの時代の主役になる可能性も秘めています。

木は かるくて つよい! 未来のたてものをささえる自然の力

私たちのまわりには、ビルやマンションなど、大きなたてものがたくさんあります。こうしたたてものには、鉄やコンクリートのような重くてかたい素材が使われています。でも、重さが同じなら、木のほうがもっと強いことを知っていますか? 木は「かるくてつよい」すごい素材なんです。

木の強さのひみつは、「ハニカム構造」とよばれる形にあります。これは、ハチのすのように小さなパイプが集まったしくみで、少ない材料でとても強くなります。ダンボールや飛行機のはねにも使われています。

さらに、最近の木材はもっと進化しています。火に強く、水にも強くなっていて、「CLT」や「集成材」といった新しい木材が、学校や高いビルにも使われています。

木は、地球にやさしく、リサイクルもできる自然の素材です。これからの時代、木がたてものの主役になる日も近いかもしれません。

森林・林業学習館 for きっず

〔参考文献・出典〕
財団法人日本木材備蓄機構、社団法人日本林業技術協会「木をいかす」、財団法人日本木材総合情報センターの研修会資料


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