天然林と原生林の違い

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天然林と原生林の違い

「天然林」とは、自然の力で育ち(発達し)、人手が入っていないか、長い間人手の入った痕跡のない森林を指します。「原生林」とは、天然林が、さらに発達(遷移)し、これ以上発達しない(植生が遷移しない)安定状態になった森林(極相林)を指します。太古の時代から全く人の手が入っていないアマゾンの熱帯林が原生林の例として挙げられることがしばしばあります。

※森林は大きく、天然林と人工林(育成林)にわけられますが、簡単にいえば、自然の力で育った森林が天然林、人の手で育てている森林が人工林です。

天然林と原生林の違い(本来の意味)を理解するための一つの観点として「森林の発達段階」があります。森林の発達段階とは、裸地(溶岩台地等草木が全くない状態)から安定した森林に成長する段階(森林の遷移)のことで、概ね次のとおりです。

  1. 裸地(岩石に覆われた大地など)
  2. 地衣類・コケ類が侵入する
  3. ※地衣類・コケ類の遺骸が積み重なり、土壌を形成し、植物が育つ環境を整える。

  4. 植物が繁茂し、草原ができる
  5. 陽樹の森林ができる【天然林】
  6. ※陽樹とは、強い光を好み、乾燥にも強い樹種。陽樹が成長すると、自らが光を遮ってしまい、幼木が育たなくなる。

  7. 陰樹の森林ができる【天然林】
  8. ※陰樹とは、弱い光でも育つ樹種。陽樹が光を遮っても育つことができる。

  9. 安定した森林ができる【天然林/原生林】
  10. ※これ以上、植生(森林を構成する樹種)が変化せず、安定した森林を「極相(クライマックス)」とよび、この状態を「原生林」とよびます。

上記の「4.陽樹の森林ができる」以降が、「天然林」と呼ばれる森林です。また、森林の発達段階の中で、人が伐採したり、焼いたりするなどして、荒野に戻り、再び長い期間を経て、人の手が入った痕跡がなくなった森林が天然林、さらに極相に達した森林が「原生林」とよばれます。

なお、「自然林」と呼ばれる森林があります。これは自然度が高い森林のことで、天然林の中でも安定した森林(極相段階の森林)またはそれに近づいた森林を指します。

原生林の写真

原生林/長野県八千穂高原


植生の遷移からみた天然林と原生林の図

 

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天然生林とは

天然林や原生林の他、「天然生林」と呼ばれる森林もあります。天然生林は、2つの意味で使われています。

  1. 天然生林とは、天然林が、伐採されたり、台風などの気象災害、山火事などにより破壊された跡に、土中に残った種子や残った植物の生長により再び発達段階に入った森林
  2. ※天然林の初期段階は、裸地であるのに対し、天然生林は、初期段階に土壌があるため、一般に陽性の樹木から遷移が始まります。

  3. 天然生林とは、自然の力で育つ森林(天然林)でも、人の手で、森林(樹木)が育つための補助(天然更新補助作業/保育作業)を行ったり、行っている森林。

上記の2のように人の手で補助を加えた森林でも「天然生林」とよばず、「天然林」と呼んでいる場合もあるようです。この場合は、人の手が加わっているので、本来の「天然林」とは違います。日本では、ほとんどの森林は何らかのかたちで人の手が入っており、「天然林」と呼んではいるものの、明らかに人為的な影響を受けている、または人為的な影響を受けた痕跡のある「天然生林」がほとんどです。

※かつて木材生産が盛んだった時代には「人工林(育成林)」に対して、それ以外の森林を単に「天然林」と呼んで区別していました。

天然林・原生林の役割

熱帯林の写真

 

天然林や原生林は、非常に長い時間をかけて形成され、地球上の生態系や環境の保全と維持に重要な役割を果たしています。

天然林や原生林は、生物多様性が非常に高く、さまざまな種類の樹木とともに、多種多様な野生生物の生息地であり、多くの固有種が生息しています。また、二酸化炭素の吸収や酸素の放出、水循環の調整(水源涵養)、土壌保全、気候変動の緩和など、地球環境にとって重要な役割を果たしています。

森林資源としても利用され、木材や果実、薬草、そして観光など多岐にわたって利用されています。また、人間の文化や歴史、信仰などが深く根付いており、地域社会にとっても重要な存在となっています。

しかし、近年の人間の経済活動により、天然林や原生林の破壊が進んでおり、多くの生物種が絶滅の危機に瀕していたり、地球温暖化や自然災害のリスクが生じています。天然林や原生林の減少は、地球環境に深刻な問題をもたらしており、保全の取り組みが進められています。


〔参考文献・出典〕
一般社団法人日本森林技術協会「林業技術 No.696」藤森隆郎/コトバンク・デジタル大辞泉/一般財団法人 環境イノベーション情報機構「EICネット」


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