国有林 - 「国民の森林」の役割と取り組み
国有林とは―日本の森林の約3割
国有林とは、国が所有する森林です。このうち林野庁が管理経営する「国有林野」は約758万haあり、日本の国土面積の約2割、森林面積の約3割を占めています。
国有林野の多くは、奥地の山岳地帯や河川の上流にある水源地域などに分布しています。そのため、木材を生産する場所というだけではなく、土砂災害の防止、水源の涵養、地球温暖化の防止、生物多様性の保全など、国民全体の生活を支える公益的な役割を担っています。
実際、国有林野の約9割が「保安林」に指定されています。また、原生的な天然林や希少な野生生物の生息・生育地も多く、日本の世界自然遺産の陸域の多くが国有林野に含まれています。
こうしたことから、国有林は重要な「国民共通の財産」として、林野庁が全国7つの森林管理局や森林管理署等を通じて一元的に管理しています。

景勝地として知られる福島県の裏磐梯にも、林野庁・関東森林管理局が管理する国有林があります。
※林野庁所管の「国有林野」は約758万haです。森林統計上の「国有林」には、これ以外の国有林等が含まれるため、統計によって面積の表記が異なる場合があります。
「国民の森林」としての国有林
国有林の管理では、木材を生産することだけではなく、森林が持つさまざまな公益的機能を将来にわたって発揮させることが重視されています。
特に、近年は豪雨などによる山地災害への対応、地球温暖化の防止、生物多様性の保全、花粉発生源対策、森林・林業の再生への貢献など、国有林に求められる役割も多様になっています。
また、国有林は「国民の森林(もり)」として、森林浴や登山などを楽しむ場所、子どもたちが自然について学ぶ場所、NPOや企業などが森林づくりに参加する場所としても活用されています。
つまり国有林は、「国が所有している森林」というだけでなく、国民の暮らしや自然環境を支え、社会全体でその価値を生かしていく森林だといえます。
レクリエーションの森―国有林で自然を楽しむ
国有林の中でも、優れた自然景観を持ち、森林浴、自然観察、登山、キャンプ、スキーなどに適した森林は「レクリエーションの森」として設定されています。
高尾山、赤沢自然休養林、嵐山、上高地など、全国的によく知られた観光地や自然景勝地の中にもレクリエーションの森があります。

京都・嵐山の国有林も「風景林」としてレクリエーションの森に設定されています。森林景観と歴史・文化が一体となった場所です。
レクリエーションの森は、森林の特徴や利用目的によって次の6種類に分けられています。
| 区分 | どのような森林? |
|---|---|
| 自然休養林 | 特に景観が美しく、登山、ハイキング、キャンプなどを総合的に楽しむことができる森林です。赤沢、高尾山などがあります。 |
| 自然観察教育林 | 自然の変化に富み、野生動植物の観察や森林の働きを学ぶなど、自然観察や森林環境教育に適した森林です。 |
| 風景林 | 名所や旧跡などと一体となって美しい景観をつくっている森林です。嵐山や宮島などがあります。 |
| 森林スポーツ林 | キャンプやサイクリングなどのアウトドア活動を通じ、森林と気軽にふれあえる森林です。 |
| 野外スポーツ地域 | スキー場や宿泊施設などと一体となり、雄大な自然の中でスポーツを楽しめる地域です。 |
| 風致探勝林 | 湖沼、渓谷などの優れた自然景観や、さまざまな樹木などを観賞しながら散策できる森林です。 |
2025年4月1日現在、全国563か所、約24万haがレクリエーションの森に設定されています。2024年度には延べ約1.2億人が利用しました。
また、その中でも特に景観が優れ、観光資源として多くの人に訪れてほしい国有林については、「日本美しの森 お薦め国有林」として情報発信が行われています。
※以前は1,000か所を超えるレクリエーションの森が設定されていましたが、利用実態などを踏まえた見直し・再編が行われています。
貴重な自然を守る「保護林」

木曽駒ヶ岳の森林生態系保護地域
国有林には、人の影響をあまり受けていない原生的な天然林や、希少な動植物が暮らす森林が数多くあります。こうした貴重な森林生態系を守るために設定されているのが「保護林」です。
保護林制度は1915(大正4)年に始まった、日本でも長い歴史を持つ森林保護の仕組みです。その後、科学的な知見や生物多様性保全の考え方を取り入れながら制度が見直され、現在では次の3つに区分されています。
| 区分 | 目的 |
|---|---|
| 森林生態系保護地域 | 我が国の主要な森林帯を代表する原生的な天然林などを保存し、森林生態系全体を守ります。 |
| 生物群集保護林 | 地域を代表する自然状態の森林や、特色ある生物群集を持つ森林を守ります。 |
| 希少個体群保護林 | 希少な野生生物の生育・生息地などを保護し、その個体群を守ります。 |
2024年4月1日現在、全国に658か所、約102万haの保護林が設定されています。国有林野面積のおよそ13%に相当します。
知床、白神山地、屋久島、小笠原諸島、奄美・沖縄など、世界自然遺産となっている地域にも広大な国有林や保護林があります。
緑の回廊―森と森をつないで生き物を守る

保護林などをつなぐ「緑の回廊」は、野生生物が森林の間を移動できる生態系ネットワークとして重要な役割を担っています。写真は知床半島のエゾシカ。
貴重な森林を一つずつ守るだけでは、十分とはいえません。森林が道路や開発などによって分断されると、野生動物が移動しにくくなり、動植物の個体群が孤立してしまうことがあります。
そこで、保護林などを森林でつなぎ、野生生物が移動できる経路を確保する仕組みが「緑の回廊」です。
緑の回廊をつくることで、動植物の生息・生育地をより広く確保するとともに、異なる場所に暮らす個体群の交流を促し、遺伝的な多様性を守ることにもつながります。
知床半島、奥羽山脈、白山山系など、全国各地の国有林に緑の回廊が設定されています。区域内では、森林の状態や野生生物の移動状況を調べるモニタリングも行われ、その結果を森林の保護・管理に生かしています。
日本の「木の文化」を未来へつなぐ森

「木の文化を支える森」では、歴史的建造物の修復や伝統文化に必要な木材などを将来にわたって確保するため、長い年月をかけて森林を育てています。
寺院や神社などの歴史的な木造建造物を修理するためには、大きく育ったヒノキやヒバなど、現在では簡単に手に入らない木材が必要になる場合があります。
また、祭りや伝統工芸には、特定の木材や樹皮、竹などが欠かせないものもあります。こうした日本の「木の文化」を未来へ伝えるため、必要な資材を生み出す森林を守り育てる制度が「木の文化を支える森」です。
地域の自治体、文化財関係者、民間団体などで構成される協議会と森林管理署等が協定を結び、国有林を利用して植樹や森林整備を行います。
このうち、歴史的建造物の修復などに必要な木材を将来にわたって育てる森林は、一般に「古事の森」と呼ばれています。
数百年先の修理を考えて木を育てる
木造建造物の中には、数百年にわたって修理を繰り返しながら受け継がれてきたものがあります。しかし、大きな柱などに使える木を育てるには、それと同じように長い年月が必要です。
例えば「檜山古事の森」では、歴史的木造建造物の修復などに必要なヒバを育てています。このような取り組みは、現在の私たちが使う木を育てるだけではなく、何世代も先の人々が日本の木造文化を守れるよう、未来に木材を残す取り組みでもあります。
伝統工芸や祭りを支える森も
「木の文化を支える森」は建物のためだけではありません。秋田県大館市の「曲げわっぱの森」では伝統工芸に使うスギを育て、長野県では檜皮葺の建物に必要なヒノキを育てる「檜皮の森」などがあります。
また、沖縄県の「首里城古事の森」では、首里城の復元・修復などに利用されるイヌマキなど、琉球の木の文化を支える森林づくりが進められています。
2025年3月末現在、「木の文化を支える森」は全国22か所に設定されています。
みんなで育てる国有林―国民参加の森林づくり
国有林は、国の職員だけで守り育てているわけではありません。学校、NPO、地域住民、企業などが国有林を活動の場として利用し、森林づくりや森林環境教育に参加するさまざまな仕組みがあります。
森林管理署等と活動する団体が協定を結び、国有林を継続的な活動フィールドとして利用する制度も設けられています。
遊々の森―子どもたちの森林教室

「遊々の森」は、国有林の豊かな自然を利用して、子どもたちが森林や自然について体験しながら学ぶ場所です。
「遊々(ゆうゆう)の森」は、学校などと森林管理署等が協定を結び、国有林を森林環境教育の場として継続的に利用する制度です。
森林教室、自然観察、植樹、木の高さや太さを測る体験、林業体験などを通して、子どもたちが森林の働きや林業について実際の森林の中で学びます。
教室で森林について学ぶだけでなく、木に触れ、土の上を歩き、森の生き物を観察することで、森林をより身近な存在として理解することができます。
ふれあいの森―森林ボランティアの活動場所
「ふれあいの森」は、森林づくりに参加したいNPOやボランティア団体などに、国有林を活動フィールドとして提供する制度です。
植樹、下刈り、歩道の整備など、それぞれの団体が森林管理署等と協力しながら森林づくりに取り組みます。
社会貢献の森―企業なども森林づくりに参加
企業などが社会貢献活動の一環として森林整備に参加するための仕組みが「社会貢献の森」です。森林管理署等と協定を結び、植樹や森林整備などに取り組みます。
森林保全活動は、企業の環境への貢献だけでなく、従業員の森林環境教育や地域との交流の場にもなっています。
多様な活動の森
森林パトロール、美化活動、自然観察など、森林整備以外のさまざまな活動にも国有林が利用されています。このような活動の場として設けられているのが「多様な活動の森」です。
法人の森林―企業などと国が一緒に森林を育てる
「法人の森林(もり)」は、企業や団体などが国と分収林契約を結び、国とともに森林を育てる仕組みです。
森林づくりを通した社会貢献のほか、社員教育、環境教育、顧客との交流などにも利用されています。
このように、現在の国有林では、国が一方的に管理するだけではなく、学校、地域住民、NPO、企業など、多くの人々が森林と関わる機会が設けられています。
国有林は森林・林業を支える役割も
国有林は自然を守ったり、レクリエーションの場を提供したりするだけではありません。日本の森林・林業全体を支える役割も担っています。
国有林では、人工林の間伐や主伐、再造林などを行い、森林を適切に育てながら木材を供給しています。また、低コストで効率的な森林施業、新しい林業技術、ICTやドローンなどの活用についても、民有林と連携しながら取り組みが進められています。
さらに、台風や豪雨などによって山地災害が発生した場合には、国有林の治山事業によって荒廃した山地を復旧するとともに、必要に応じて都道府県と連携した復旧支援も行われます。
国有林には、「自然を守る」「木材を育てる」「災害から暮らしを守る」「森林を学ぶ場をつくる」といった多くの役割があります。これらを両立させながら森林を次の世代へ引き継ぐことが、国有林野事業の大きな役割です。

国有林って、だれの森?
山へ遊びに行ったとき、「この森はだれのものなんだろう?」と考えたことはありますか?
日本の森林には、個人や会社が持っている森、市町村や都道府県が持っている森、そして国が持っている森があります。このうち、国が持っている森林を「国有林」といいます。
国有林は日本の森林の約3割
国有林野の広さは約758万ha。日本の森林のおよそ3割を占めています。
しかも、国有林は山の奥や川の上流にたくさんあります。そこに森林があることで雨水がゆっくり地面にしみ込み、川の水を育てたり、山から土砂が流れ出すのを防いだりしています。
森に住む動物や植物にとっても、大切な生活場所です。
高尾山や嵐山にも国有林がある
「国有林」というと、だれも行かない山奥の森を想像するかもしれません。でも、私たちが遊びに行ける国有林もたくさんあります。
例えば、東京の高尾山や京都の嵐山などにも国有林があります。美しい景色を楽しんだり、ハイキングや森林浴をしたりできる国有林の中には、「レクリエーションの森」に指定されているところもあります。
人が入らずに守る森もある
反対に、できるだけ自然のまま守ることを大切にしている国有林もあります。
原生的な森林や、珍しい動物・植物が暮らしている森林などは「保護林」として大切に守られています。
さらに、森と森をつなぐ「緑の回廊」をつくることで、動物たちが広い範囲を移動できるようにする取り組みも行われています。
何百年も先のために木を育てる森
国有林には、とても長い未来を考えて木を育てている森もあります。
古いお寺や神社などの大きな木造建築を修理するときには、とても太くて大きな木が必要になることがあります。しかし、そのような木は、必要になったからといってすぐに用意できるものではありません。
そこで「木の文化を支える森」では、100年、200年、さらにその先の人たちが使うかもしれない木を、今から育てています。
自分たちが使わないかもしれない木を、未来の人のために育てる。森林ならではの、とても長い時間の取り組みです。
国有林はみんなの森林
国有林は国が管理していますが、だからといって国だけのための森林ではありません。
水を育て、災害を防ぎ、二酸化炭素を吸収し、たくさんの生き物を守り、私たちが自然とふれあう場所にもなっています。
学校の子どもたちが森で勉強する「遊々の森」や、地域の人や企業が森林づくりに参加できる制度もあります。
国有林が「国民の森林」と呼ばれているのは、森林から受ける恵みも、森林を守る大切さも、私たちみんなに関係しているからなのです。
〔参考文献・出典〕
林野庁「森林・林業白書(令和7年度版)」/林野庁「国有林野の管理経営に関する基本計画の実施状況」/林野庁「国民の森林 国有林」/林野庁「レクリエーションの森」/林野庁「保護林」/林野庁「緑の回廊」/林野庁「木の文化を支える森」/林野庁「協定締結による国民参加の森林づくり」
