木地師/木地屋 きじし/きじや

日本の木工文化を支えてきた職人

木地師とは

木地師(木地屋)は、轆轤(ろくろ)を使って、椀(わん)・盆・重箱・鉢などの木製品の素地(木地)を作る伝統的な職人です。塗りや装飾を施す前の、木そのものの形状を美しく削り出す技術を担っています。「ろくろ師」「木地職人」とも呼ばれます。

木地師の仕事と技術

木地師は、主に木材をろくろで回転させながら削る「旋削(せんさく)技術」に長けており、対称性のある丸物(椀・鉢・盆など)を滑らかに成形するのが特徴です。漆器や民芸品などの土台として、非常に重要な役割を担ってきました。

また、一部の木地師は副業としてこけしの製作にも携わることがあり、特に東北地方の温泉地では、こけし職人と木地師の技が融合して発展した背景があります。

歴史と文化的背景

木地師の歴史は古く、平安時代にさかのぼるとされています。滋賀県・福井県・岐阜県の県境にある山間部(近江・若狭・美濃)には、木地師の祖とされる伝説的人物「惟喬親王(これたかしんのう)」にまつわる伝承が残されています。

彼らは、山中で良質な木材(トチ、カエデ、クリ、ケヤキなど)を求めて移動生活を送りながら、轆轤を使って木器を製作・販売していました。いわば「山の民」「移動工人」として、各地で技術を伝播させていったのです。

近代以降の変遷

明治時代以降、生活様式の変化や工業製品の普及により、木地師の数は急減しました。また、移動を前提とした生業形態も次第に廃れ、定住して作業を行う職人が主流となります。

現在では、伝統工芸品の産地(輪島、会津、越前、山中、木曽など)で木地製作を担う職人が少数ながら活動を続けており、文化財的な価値も高まっています。

現代における木地師の役割

現代の木地師は、以下のような場面で活躍しています。

  • 漆器や伝統工芸品の木地製作
  • 民芸品・こけしなどの製作
  • クラフト製品・オーダーメイド食器の制作
  • ろくろ体験・ワークショップ講師

また、重要無形文化財に指定されている工芸技術の一翼を担っており、その技術の継承が課題となっています。

参考:木地師と関係の深い用語

用語説明
轆轤(ろくろ)木材を回転させて削る道具。電動式と手動式がある。
惟喬親王木地師の祖とされる平安時代の皇族。木地の技術を伝えたという伝承がある。
木地塗装・装飾を施す前の木工製品の素地部分。
轆轤挽き轆轤を使って円形の木器を挽く(削る)技法。

木地師は、日本の木工文化を支えてきた職人であり、轆轤技術によって美しく精緻な木地を作る専門家です。かつては山から山へと渡り歩く生活をしていましたが、現在は伝統工芸品やクラフト製品の分野でその技が活かされています。今後もその技術と精神を次世代へと継承していく取り組みが求められます。


〔参考文献・出典〕
長崎の樹木「豆知識」/webio


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