高性能林業機械 こうせいのうりんぎょうきかい

高性能林業機械(こうせいのうりんぎょうきかい)とは、従来のチェーンソーや簡易な架線集材装置などに比べて、作業効率や安全性が大幅に向上した近代的な林業機械のことを指します。主に北欧(スウェーデン・フィンランドなど)で開発されたものが日本にも導入され、近年は国産化も進んでいます。

高性能林業機械の主な種類

ハーベスタ

ハーベスタは、立木を伐倒し、そのまま枝を払い、さらに一定の長さに玉切りするまでを一貫して行うことができる高性能林業機械です。オペレーターはキャビンの中から操作できるため、安全性が高く、効率的に伐採作業を進めることができます。日本では特に人工林の集中的な伐採作業に導入されており、作業時間の大幅な短縮に貢献しています。

プロセッサ

プロセッサは、すでに伐倒された木をつかみ取り、枝を払い、必要な長さに切りそろえる機械です。伐倒自体はチェーンソーや別の機械によって行う必要がありますが、その後の処理を効率化する役割を担っています。特に造材作業を短時間で正確に行えることから、作業者の負担軽減と木材品質向上に寄与しています。

フォワーダ

フォワーダは、伐採・造材された丸太を荷台に積んで林内から土場まで運搬するための機械です。地面を引きずらずに木材を運ぶため、林地や木材を傷めにくいという利点があります。丸太の輸送効率を高めるとともに、環境への影響(森林土壌や植生への影響)を抑えた搬出方法として、近年特に普及が進んでいます。

スキッダ

スキッダは、伐採された丸太をワイヤーでけん引して運搬する機械です。フォワーダに比べると丸太を地面に接触させながら運ぶため林地への影響が大きい場合もありますが、地形条件や作業規模によっては非常に有効に機能します。とくに比較的短距離の搬出や、地盤が比較的堅固な場所で利用されることが多いです。

フェラーバンチャ

フェラーバンチャは、主に伐倒作業を効率的に行うための機械です。大きなアームの先端に取り付けられたカッターやグリップで立木をつかみ、切り倒した木をまとめて保持することができます。複数の木を連続して伐倒し、まとめて集積することが可能で、広い面積を短時間で伐採する作業に適しています。アメリカやカナダなどの大規模な林業地帯で普及してきた機械ですが、日本でも皆伐や大規模間伐の現場で導入が進んでいます。伐倒と同時に木を安定して保持できるため、作業の安全性が高まる点も特徴です。

タワーヤーダ

タワーヤーダは、高所に設置したタワーからワイヤーを張り、木材を吊り下げて集材する架線方式の機械です。急峻な山地での木材搬出に適しており、日本の中山間地域において欠かせない存在です。地形の影響を受けにくく、効率的かつ比較的環境に配慮した搬出作業を可能にすることから、今も広く利用されています。

スイングヤーダ

スイングヤーダは、日本独自の発展を遂げてきた高性能林業機械で、タワーヤーダと同じく架線を利用して木材を搬出します。ただし、タワーヤーダのように高いタワーを設置するのではなく、油圧ショベルの上部旋回台にウインチを取り付け、ブームを利用してワイヤーを展張する仕組みになっています。これにより設置や移動が容易で、比較的小規模な現場や中山間地での作業に適しています。地形に応じて柔軟に対応できるため、日本の林業現場ではタワーヤーダと並んで重要な役割を果たしています。

特徴とメリット

高性能林業機械の最大の特徴は、従来の人力や簡易機械に比べて作業効率と安全性が大きく向上している点にあります。伐倒から枝払い、玉切り、集材や運搬までを機械で分業化することで、従来の手作業に比べ数倍の効率を実現しています。また、操縦席の中からリモコンやレバーで操作できるため、チェーンソーを直接扱う危険作業が減り、現場の安全性が高まります。さらに、少人数でも広い範囲を短時間で作業できることから、労働力不足が深刻化する林業において省力化の効果が大きく、造材の精度も高いため市場や製材工場に適した木材を安定して供給できるというメリットもあります。

課題

一方で、高性能林業機械にはいくつかの課題も存在します。まず導入コストが非常に高く、1台あたり数千万円にのぼるため、小規模な林業事業体にとっては大きな負担となります。加えて、大型機械は平坦地では力を発揮しますが、日本の中山間地域に多い急峻な地形では活用が難しい場合があります。また、機械を操作するためには専門的な技術と資格を必要とし、十分なオペレーターが育成されていないことも課題です。さらに、重量のある機械を林地に入れることによる土壌や植生への影響も指摘されており、環境に配慮した運用や路網整備のあり方も検討すべき問題となっています。

日本での活用状況

日本においては、2000年代以降、国の「森林・林業再生プラン」や各種補助制度の後押しにより高性能林業機械の導入が進みました。北海道や九州などの平坦地や大規模人工林では、ハーベスタやフォワーダを中心に積極的に導入され、生産性の向上に寄与しています。一方で、中山間地域では大型機械の使用が難しいため、小型化されたハーベスタやグラップル付き油圧ショベルといった機械が導入される傾向にあります。こうした機械化の普及によって、安全性や作業効率が高まると同時に、若手労働力の参入や森林資源の持続的な利用に向けた環境づくりが進められています。

林業機械化の今後の展望

スマート林業の進展

スマート林業とは、ICTやAIを活用して森林管理から伐採・運搬までを効率化し、安全性と持続可能性を高める取り組みです。衛星データや航空レーザー測量による森林資源の可視化、木の位置や樹高、蓄積量の精度の高い把握が進んでいます。また、伐採計画から市場流通までを電子的に管理することで、木材のトレーサビリティを確保する動きも広がっています。

高性能林業機械とICTの融合

従来の伐る・運ぶという機能に加えて、センサーやデータ連携機能を持つ高性能林業機械が登場しています。たとえば、ハーベスタは伐採した木の直径や長さを自動的に計測し、材積をリアルタイムで記録することが可能になっています。さらにGNSSを用いることで作業位置の把握や進捗の管理が容易になり、遠隔診断によって機械の稼働状況や故障の予兆を把握し、保守コストを抑える試みも進められています。

ドローンの活用

ドローンは林業の「目」として急速に普及しています。伐採予定地の地形や樹木の状態を空撮して解析するほか、航空レーザーを搭載した機体によって立木の本数や樹冠の広がりを自動的に分析することも可能です。また、作業の進捗を上空から確認して効率を評価する活用も一般的になっており、海外では苗木の空中散布や自動植林を試みる事例も現れています。

AIと自動化の展望

AIと自動化技術は林業の現場を大きく変えようとしています。すでに自動運転フォワーダの実証実験が進んでおり、将来的には一人のオペレーターが複数台の機械を同時に管理することが想定されています。さらに画像解析を用いて伐倒すべき木を自動判別する研究や、遠隔操作や半自動制御による伐倒ロボットの開発も進められています。

課題と展望

ただし、こうした新技術の導入には課題もあります。ICTを搭載した高性能機械は従来以上に高額であり、導入には補助制度や共同利用の仕組みが不可欠です。また、ICTやデータ解析を使いこなせる人材の育成も急務となっています。さらに、日本特有の急峻な地形に対応できる小型で高機動なスマート機械の開発や、環境への影響を最小限に抑える運用方法の検討も求められます。森林経営のデータ化は、将来的には二酸化炭素吸収量の算定やカーボンクレジット取引ともつながる可能性があり、林業と社会全体のカーボンニュートラルの実現に寄与していくことが期待されています。


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