和蝋燭 わろうそく

森と伝統が育む日本の灯り

和蝋燭(わろうそく)は、日本に古くから伝わる蝋燭で、奈良時代にはすでに使われていたとされます。江戸時代に入ると、ハゼ(櫨)の木の実から採れる木蝋(もくろう)を原料とする製法が広く普及し、品質の高い灯りとして庶民から武家、寺社に至るまで愛用されました。

ハゼの木と森林との関わり

ハゼの木(ウルシ科)は、九州や四国を中心に温暖な地域で育つ落葉樹で、秋には紅葉が美しいことで知られます。その実からは木蝋が採れ、和蝋燭のほか、化粧品や防水剤にも利用されてきました。江戸時代には各地でハゼの植林が奨励され、農山村の副業や地域経済を支える重要な樹木となっていました。

ハゼ林は単に木蝋を生むだけでなく、里山の一部として地域の生態系にも寄与し、鳥や昆虫のすみかとなるなど森林資源の多面的な価値をもたらしてきました。

和蝋燭の特徴と魅力

和蝋燭は、点火時の油煙が少なく、炎が大きく安定し、やわらかな光を放ちます。芯は和紙とい草の髄を用いた中空構造で、空気の流れが良く、独特の揺らぎを生み出します。その炎は茶道・華道・香道などの伝統文化の場に調和し、日本人の美意識を象徴する存在ともいえます。

文化と暮らしにおける役割

和蝋燭は、神社や寺院での供養や祈願、お盆やお彼岸の供物として欠かせません。また、災害時の非常用照明としても利用されてきました。現代では、インテリアやキャンドルナイト、環境に配慮した自然素材の灯りとして再評価されています。

森と伝統を未来へ

和蝋燭を支えるハゼの木や里山の景観は、人と自然が長年築いてきた共生の証です。森林資源の持続的な利用や植林活動を通じて、この灯り文化と森の恵みが、これからも次世代へ受け継がれていくことを願っています。


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